研究課題/領域番号 |
26620105
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北山 辰樹 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (60135671)
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研究分担者 |
高坂 泰弘 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (90609695)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 精密高分子合成 / リビングアニオン重合 / 停止反応 / 末端機能化ポリマー / 反応選択性 / 多成分連結反応 |
研究実績の概要 |
リビング重合に基づく高分子合成により,分子量や立体規則性,末端構造を精密に制御した高分子の精密合成が実現している.しかしながら,従来のリビング重合では開始剤/助剤(添加剤),モノマー,停止剤を適切な順序,タイミングで逐次投入する必要があり,重合の実験操作を煩雑化するとともに,反応設計を制約する遠因にもなっていた.これに対し,本研究では反応剤を同時投入するだけで,開始剤,モノマー,停止剤が予めプログラム化された順序で理路整然と反応し,分子量・立体規則性・末端構造を制御した高分子を自発的に与える重合(アトロポス重合)を開発する. 一般に開始剤と停止剤を混合すると,これらの直接的な反応により,単に開始剤が失活して重合が開始しない.また,前述の副反応を経ずに無事に重合が開始できた場合も,活性種が共存する停止剤とすぐに反応するため,高分子が成長しない.このため,全ての試薬を同時投入し,分子量・末端構造の同時制御を目指すアトロポス重合は非常にチャレンジングな課題であると言えるが,同重合では用いる試薬を反応開始時に混合するだけで精密高分子合成が達成できるため,実験プロセスの大幅な簡略化が可能であり,工業的にも重要な基幹技術となり得る. アトロポス重合の実現には,開始剤/成長種に対してモノマーよりも圧倒的に穏やかな反応性を示す停止剤が有効である.この場合,重合初期~終期まではモノマーが選択的に反応し,モノマーがほぼ完全に消費された後に,より低活性な停止剤が反応すると期待される.そこで,本研究の初年度では,研究代表者らがこれまで精力的に研究を進めてきたメタクリル酸メチルのアニオン重合を題材に,アトロポス重合を実現する適切な停止剤を開発することを目的とする.本年度の研究は,モノマー担持型停止剤を利用した分岐高分子の合成など,次年度以降に展開する応用研究の基礎としての役割も担う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1) α-リチオイソ酪酸イソプロピル/エチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノキシド)によるメタクリル酸メチルの重合において,α-(ブロモメチル)アクリル酸t-ブチル,α-(メトキシメトキシメチル)アクリル酸t-ブチル,およびα-(クロロメチル)-β-メチルアクリル酸メチルがそれぞれ停止剤として機能することを確認した.これらを用いてアトロポス重合を試みたところ,α-(クロロメチル)-β-メチルアクリル酸メチルを用いた場合は,モノマー転化率が100%に到達し,停止剤を加えない重合と遜色のない狭い分子量分布 (Mw/Mn ~ 1.15) のポリマーが得られたうえ,末端に停止剤由来のC=C二重結合が最大で約80%導入されていることが明らかになった. (2) (1)で停止剤を設計するにあたり,同条件で生成するポリメタクリル酸メチルのリビングアニオンに対するアクリル酸エステル類の構造と反応性の相関に関する知見が必要となった.そこで,停止剤であるα-(クロロメチル)アクリル酸エチルと種々のアクリル酸エステル類の混合物をリビングアニオンと反応させ,NMRによる停止末端近傍の構造解析から,停止剤とモノマーの反応性比を評価した.その結果,アクリル酸エステルがメタクリル酸エステルに比べて約3000倍も高い反応性を示すこと,3級エステルに比べ1級エステルが4-8倍高い反応性を示すことがわかった. (3) エステル置換基にメタクリロイル基を有するα-(クロロメチル)アクリル酸エステルをリビングアニオンと反応させると,停止剤部位が選択的に機能し,末端にメタクリロイル基を有するマクロモノマーが得られた. (4) α-(クロロメチル)アクリル酸プロパルギルを用いて重合を停止すると,マイケル付加型チオール-エン反応と銅(I)触媒アジド-アルキン付加環化反応という,2種類のクリック反応が末端で並行して実施可能な立体規則性ポリマーが得られた.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 当初の計画通り,アトロポス重合をモノマー選択的共重合との融合を目指す.アクリル酸ブチル(高活性モノマー),メタクリル酸メチル(低活性モノマー),α-(クロロメチル)-β-メチルアクリル酸メチル(停止剤)を開始剤と混合すると,まずアクリル酸ブチルの重合が選択的に進行し,次いでメタクリル酸メチルの重合に移行し,最終盤で停止反応が生じる.このようにして,試薬の同時添加による共重合ではあるが,分子量が制御された末端機能化ブロック共重合体が自発的に生成する重合の構築を目指す. (2) α-(クロロメチル)-β-メチルアクリル酸メチルでは停止末端の導入率が100%に到達せず,約80%で頭打ちとなった.研究代表者らのグループによる別の研究から,停止反応が平衡過程であり,遊離する塩化物イオンが停止反応を抑制している可能性が示唆されている.そこで,より優れた脱離基である臭素原子やメトキシメトキシメチル基を有する停止剤を用いて,停止末端の導入率向上を目指す. (3) 初年度に得たモノマー担持型停止剤〔前項(4)〕に関する知見を元に,エステル置換基にメタクリロイル期を有するα-(クロロメチル)-β-メチルアクリル酸エステルを合成する.これをメタクリル酸メチルと共重合すると,重合後期にリビングアニオンどうしが側基の停止剤部位に反応し,ハイパーブランチポリマーが生成する.当初計画通り,本反応によるハイパーブランチポリマーの1段階合成に挑戦する.
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