研究課題/領域番号 |
26620114
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
藤浪 眞紀 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50311436)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 格子欠陥 / 三次元分布 / 陽電子 / トモグラフィー / 量子ビーム / 放射線 |
研究実績の概要 |
高感度原子空孔プローブである陽電子の試料への均一照射かつ極短パルス化法の着想と位置敏感型γ線検出器の開発により,原子空孔の三次元分布を計測する陽電子消滅トモグラフィーを実現する。試料内への陽電子均一形成法として,数MeVの極短パルス制動放射X線照射による試料内対生成反応によって生成した陽電子の利用を着想した。陽電子が消滅時に発する511 keVγ線の検出器として,mmオーダーの位置分解能と0.5 ns以下の時間分解能をもつ分割型Lu2SiO5:Ceシンチレーション検出器を開発する。これらシーズ技術の成否は,超伝導電子線形加速器施設(ドイツ)での実証実験で判断する。高温・高圧など極限条件下での非破壊その場分析が可能となり,新規分析情報である原子空孔三次元分布は,原子レベルでの物性解明を飛躍的に進歩させる。平成26年度は検出器の作製と性能評価および陽電子寿命二次元データ処理系の開発に取り組み,仕様に合致する高位置分解能,高時間分解能,高計数効率のγ線検出器を構築する。 H26年度はLu2SiO5:Ce(LSO)シンチレーション検出器を用いて検出器を開発する。LSOは密度が7.4と大きく,蛍光寿命は40 ns程度と短く,蛍光出力も1 MeVあたり250,000光子と高い。PETで使用されており,時間分解能は0.550 ns程度である。そのLSOを4×4×20 mm3に加工し,13×13個配置する。LSOからの蛍光は立ち上がり時間の速い光電子増倍管を4本配置して検出する。4本の光量比から入射位置が算出でき,対消滅位置が判定され二次元計測が可能となる。極短パルス化制動放射X線発生(陽電子入射)と消滅γ線検出の時間差である陽電子寿命を開発したLSO検出器によって位置情報とともに求めて,二次元画像データ化する解析プログラムを開発する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H26年度はLu2SiO5:Ce(LSO)シンチレーション検出器を用いて位置分解能をもつ検出器を開発することにあった。LSOの特性である時間分解能が0.550 ns程度であることを確認した。またそのLSOを4×4×20 mm3に加工し,13×13個配置し,立ち上がり時間の速い光電子増倍管を4本配置してγ線を検出するシステムとした。この検出器の開発は達成度100%である。 つぎに4本の光量比から入射位置が算出できるように,対消滅位置が判定され二次元計測を可能とするためのプログラム開発を行った。その達成度は約80%である。 極短パルス化制動放射X線発生(陽電子入射)と消滅γ線検出の時間差である陽電子寿命を開発したLSO検出器によって位置情報とともに求めて,二次元画像データ化する解析プログラムの開発については,達成度は80%である。
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今後の研究の推進方策 |
二つ一組のγ線検出器により同時計数測定するため,平成26年度に開発したLSO検出器と同等の検出器をもう一つ製作する。産総研の電子線形加速器を利用して同時計数計測システム構築および陽電子寿命スペクトルの時間分解能を評価,最適化する。 本装置が単なるX線励起の陽電子寿命測定に利用可能であることは,すでに実証されており,共同利用体制も整備されている。平成26年度に申請予定の研究計画書が受理されれば,現地に開発した検出系(試料回転ステージ,検出器,信号処理系の一部)を搬入し,実証実験を実施する。 実証用の試料としては,模擬試料と手法の有用性を具現化するための試料を用意する。模擬試料には,陽電子寿命の大きく異なる金属と高分子との複合材料を考えている。陽電子平均寿命は,前者は0.1 ns,後者は0.8 nsであり,空間分解能の評価に最適である。実試料では,塑性変形した金属材料や高分子材料における欠陥導入分布がある。金属(純鉄およびステンレス鋼)ではダンベル型の試料に10%程度のひずみを付与し,生成する転位や空孔の分布を求め,破断箇所の予測を狙う。寿命変化量がわずか100 ps程度であるので,装置性能の限界を判定する。成功すればインパクトは非常に大きい。高分子(低密度ポリエチレン)でも同様の実験により,自由体積分布が求められ,非晶質材料の物性に対してのサブナノメートル以下の空隙が与える影響を考察できる。この場合,1から10 nsの間で寿命値は変化すると予想される。陽電子源と試料を密着する必要がないという利点を生かし,数百℃での高温測定,数GPaといった高圧測定,変形状態のままの測定など極限状態分析にもチャレンジしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由は主に以下の二点である。当初の見積りよりも安価で試験用消耗品が入手できたこと。平成26年度に購入予定の光電子増倍管を研究室所有の既存品で性能チェックをしたため,購入しなかった。ただし,研究進捗には問題はなく,予定通りの成果を得られた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度に購入しなかった光電子増倍管を購入することにより,その分を平成27年度に支出予定である。
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