研究課題
本研究では、近年注目を集めているマイクロ流路内のマイクロ液滴を用いた分析操作を研究した。特に、マイクロ液滴の自然乳化過程の理解、マイクロ・ナノ液滴間の分離操作の確立、ナノ液滴及びマイクロ液滴の分析応用を目的とした。平成26年度の研究により、界面活性剤としてSPAN80、連続相としてオクタン・ドデカンなどの炭化水素系溶媒を用いた場合、自然乳化メカニズムが液膜輸送型であることが判明した。また、溶質の疎水性や大きさにより、マイクロ水滴に留まる場合とナノ液滴への分配する場合があることがわかった。また、マイクロ水滴内に留まるアビジン濃度を計測する応用を示した。平成27年度は、原理解明と応用を進めた。原理解明では、ローダミン123の濃度と分配速度の関係を詳細に調べた。溶質がマイクロ水滴と連続相の界面に吸着し、ナノ液滴に分配するモデルを支持する結果を得た。また、中性界面活性剤であるSPAN80に、微量のアニオン性界面活性剤AOT加えた場合、AOTの濃度が高いほどローダミン123がナノ水滴側に分配しやすいことがわかった。ローダミン123は水溶液中で陽イオンとなっており、AOT添加によりマイクロ水滴界面に局在しやすくなったためと考えられる。本法の応用として、タンパク質の結晶核生成解析を行った。リゾチームの過飽和溶液のマイクロ水滴表面で自然乳化を誘起し、過飽和度を高めるとタンパク質結晶が析出することを確認した。このときSPAN80濃度を高めると、過飽和度上昇の速度が速くなり、複数個の核が生成することもわかった。以上より、新しい結晶化解析手法としての応用を示すことができた。本研究では、新しい分離・濃縮法であるマイクロ水滴自然乳化分離・濃縮法の原理解明、応用を進め、マイクロ化学の新しいツールとして有用であることを示した。今後、化学・生化学分析の幅広い対象への応用が期待される。
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