表面の荒れた材料に吸着した分子の配向などを解析する技術はこれまでなく,本研究では拡散反射法とpMAIRS法の両面からこの課題に挑戦した. 拡散反射法では新しい偏光フィルターを導入することで,拡散反射法でも表面吸着種の分子配向が議論できることを初めて示した.具体的には拡散反射法に関する表面選択律を世界で初めて解明した。赤外スペクトルの波数領域では,粒子径に依存して表面選択律が波数領域によって異なることも初めてわかった。すなわち,外部反射分光法に該当する部分と,垂直透過法によく似たルールに従う領域の二つが共存する。これを利用すれば,微粒子表面に吸着した分子の吸着配向を議論できるように会った。 またpMAIRS法では,まさしく表面粗さのある系でも分子配向が官能基単位で±1度の高精度で決められる技術にまで高めることに成功した.薄膜の分子配向解析は,従来,フレネルの光学理論に支配されることが常識で,このため平行かつ平滑な薄膜しか定量的な解析ができなかった。たとえば,エリプソメトリーなどがこれに該当し,Langmuir-Blodgett膜や自己組織化膜しか解析対象にならなかった。 pMAIRSは,多変量解析を基盤とした分光測定法で,この限界を突破することに成功した。これにより,drop cast膜やスピンコート膜も十分に解析の対象に入り,工業的に有用なデバイス薄膜の解析に大きく道を開いた。また,再現性や定量性という点でも十分に実用に耐えるものとなり,光学定数を必要としないpMAIRSのメリットが大きく活用できる出口として,応用物理が特に重要な方向性であることも広く知られるようになった。 なお,知財化も進め,日本とアメリカの分光機器メーカー2社による製品化が実現した。
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