研究課題/領域番号 |
26620122
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
西野 智昭 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80372415)
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研究分担者 |
児島 千恵 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50405346)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 界面・微粒子分析 / 分析科学 / 1分子計測(SMD) / 走査プローブ顕微鏡 / 原子・分子物理 |
研究実績の概要 |
現在,単一原子・分子スケールの電子デバイスの実現が目前に迫っている.その一方,ナノスケールにおける温度センシング法が欠如しており,微小領域における熱特性の評価ができず未知の点が多数残されている.これが微小デバイス実現の妨げとなっているため,新たな測定方法論の開発が強く望まれている.そこで,本研究では,走査型トンネル顕微鏡(STM)の熱応答性分子探針を創製し,単一分子スケールにおける温度計測法を開発する.本手法は,微小領域における熱特性の新たな知見を多数もたらし,今後の原子,分子デバイスの研究開発において不可欠の手法となると期待される.また,原子,分子スケールにおける電子伝導と熱伝導の関わりは,基礎研究の観点からも重要であり,本研究は,新たな基礎科学の開拓にも大きく貢献する. H26年度は,熱応答性分子探針の設計,作製に関する研究項目を実施した.即ち,熱応答性ポリマーを設計,合成し,これをAu製STM探針に修飾することによって熱応答性分子探針を作製した.本研究にて開発する温度計測法では,熱応答性ポリマーが下限臨界溶液温度付近で示す,コイル-グロビュール転移による構造変化を利用する.このような構造変化について詳細な知見が多数報告されているポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAm)に着目した.Au製STM探針への強固な吸着,修飾を可能とするためPNIPAmにチオール(-SH)基を導入した誘導体を合成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように,現在までに本研究で開発する手法の中核を成す熱応答性分子探針の設計,合成を終えている.表面に固定した高分子の熱応答,および構造変化の挙動は溶液中のそれらとは大きく異なることが知られている.これらは本手法での温度計測のシグナルの基となる重要な現象であることから拙速に合成に着手せず,充分な文献調査等に基づく設計を行った.熱応答性分子探針の評価はまだ実施していないものの,想定し得る困難に適切に対応した分子設計を施すことができた.以上のことより,現在までの達成度は,「おおむね順調に進展している」と評価する.
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今後の研究の推進方策 |
H26年度に作製した熱応答性分子探針を用いて単一分子スケールにおける温度計測法を開発する.研究代表者の単分子コンダクタンス計測に関するこれまでの知見に立脚し研究を遂行する.様々な温度のAu(111)表面を試料として用い,温度-トンネル電流の相関を明らかにし単一分子スケールにおける初めての温度計測法を確立する.応用研究として,nmスケールの線幅から成る金属細線における温度を計測し,熱伝導を明らかにする.このような微細構造は様々なナノデバイスにおいて頻繁に用いられているものであり電子伝導が局所的に生じる.そのため,多くのジュール熱が発生し,微細構造の破壊や,単一電子トランジスタ等の量子効果に基づく電子デバイスでは動作原理の基となる量子状態が失われ動作不良の原因となる.本研究では電子伝導を生じさせる電圧を印加する電極,金属細線,および両者の境界領域の局所温度を熱応答性分子探針にて計測し,ナノスケールにおける熱伝導がどのように生じるか明らかにする.原子レベルの熱伝導では,伝導電子とフォノンの各々の寄与の度合いがバルクとは異なること等が理論計算により予測されており,これまで知られていなかった原子スケールにおける熱伝導について基礎的知見をもたらすものと期待される.
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次年度使用額が生じた理由 |
文献調査等に基づき熱応答性分子探針を綿密に設計すると共に,その合成計画についても十分に検討を行った.これにより,合成を効率的に行うことができ,試薬等の物品費の支出を抑えることができたため.
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度は,熱応答性分子探針の応答性の評価,及びこれを利用した温度計測法の開発に関する研究項目を実施する.「次年度使用額」は,分子探針の下地に用いるAu線(φ0.25 mm),および基板として用いるAu(111)の作製に使用するAu粒等の購入に充てる.
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