生体組織の中からがん細胞を検出するように,複数種の細胞の中から特定細胞を"染め"分けることは診断・治療において重要である。本研究では,標的細胞の表層に高発現する受容体と相互作用するリガンドが斑に配列したパッチーな表面構造を有する新奇ナノ粒子を開発し,その表面状態(パッチー性,分子込み合い)を調節することで細胞種特異的なデジタル標識を実現することを目的としている。昨年度の研究では,ポリエチレングリコール(PEG)の排除体積効果を利用して, PEGの隙間に上皮成長因子(EGF)が斑状に修飾されたパッチーな表面を持つ金ナノ粒子の合成に成功している。本年度はこのパッチーナノ粒子と細胞表層のEGF受容体の相互作用を詳細に解析した。まず,HeLa細胞膜上でのEGF受容体の分布を調べるために,非イオン性界面活性剤存在下でショ糖密度勾配遠心法により膜成分を分離したところ,EGF受容体の半分近くがラフトに存在することが分かった。ここに(通常の)soluble EGFを作用させると,多くのEGF受容体はラフトから脱出した。この結果はβシクロデキストリンで脂質マイクロドメインを破壊した場合と同様であった。これに対して,上記パッチーナノ粒子を作用させた場合では,EGF受容体がラフト内にとどまっていた。ラフト内ではEGF受容体が高密度に存在していることが予想されるため,ここで得られた結果は,EGF受容体と相互作用したパッチーナノ粒子はSoluble EGFとは異なる膜トラフィッキングを示し,しかもそれがEGF受容体の発現量や存在状態に依存することを示唆している。つまり,パッチーナノ粒子が,受容体発現量の異なる細胞をデジタルに"染め分け"できる可能性が示されたわけである。今後,実際にEGF受容体の発現量の異なる細胞を用いることで,本手法を実践のステージへと進めていく。
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