研究実績の概要 |
媒体の極性に応答して両親媒性部位による包接のオン-オフが起こる「分子コート」の概念の提唱と実証を目指し、前年度に引き続き検討を行った。これまでと同様に、ホスト部位には構造反転によるゲストの包接が可能なメチル化シクロデキストリン類を、発光部には優れた発光特性をもつジピリンのホウ素錯体を用い、溶媒の極性に応じた構造変化を起こすことで水から低極性溶媒まで溶解可能な発光性分子システムの構築を目指し、研究を継続した。 前年度に合成した含チオフェンジピリンホウ素錯体を導入したメチル化シクロデキストリン(per-Me-CD)については水の含有量が異なるアルコール中でのNMRの検討から、反転の可能性を示唆する結果は得られたものの、水溶性がシクロデキストリンを有するもののかなり低く目的の用途には不十分と判断された。主な原因としてジピリンホウ素錯体(BODIPY)部位の疎水性が考えられるため、これにオリゴエチレングリコール部位を導入した化合物を設計した。実際の合成は、α位にブロモ基を有するBODIPY誘導体とテトラエチレングリコール鎖を導入したボロン酸エステルチオフェン誘導体との鈴木-宮浦クロスカップリング反応と、続くper-Me-CD部位との連結反応により達成された。この色素について、重水/重メタノール溶媒の混合比を変えて1H NMR測定を行ったところ、全ての混合比で緑色の溶液が得られ、水に1 mM以上の濃度で溶解することが確認できた。つまり予想した通り水溶媒系への溶解度は十分に向上したことが明らかとなった。また、重水の比率が高くなるにつれて順にオープン型, キャップ型, そして分子間会合した会合型の3つの状態をとる可能性が示唆された。以上の結果は、分子コートの実現につながる有用な知見であり、側鎖の改良や発光部位となるBODIPYの構造最適化により、高い膜透過性をもつ分子コート型バイオイメージング物質の開発につながると考えている。
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