本研究では、固体のタンパク質集積体であるタンパク質結晶に存在する特異な構造体を切り出す「タンパク質結晶エッチング法」を新たに確立し、リング、ケージ、シート、チューブなどのタンパク質超分子体の構築とその機能化を目指す。具体的には、タンパク質結晶内の分子界面にシステイン残基を導入し、ジスルフィド結合による架橋化と結晶を溶解することにより、超分子構造体を切り出す。 平成27年度は、昆虫細胞内で結晶を形成する多角体を利用し、前年度に作製したシステイン変異体の構造解析と結晶内特有のナノカップ構造体の切り出し、同定、機能化を行った。システイン変異体の酸化前後の結晶構造解析により、酸化反応後、システイン残基の構造変化がおこり、結晶内でジスルフィド結合を形成することがわかった。ジスルフィド結合により架橋化された結晶を溶解することで、結晶内特有のカップ構造を溶液中に切り出した。また、カップ構造あたり、ジスルフィド結合の数を増やすことにより、ジスルフィド結合形成効率があがり、安定にカップ構造を切り出すことに成功した。溶解したタンパク質は、MALDI TOF MS、SDS PAGEにより同定を行い、カップ構造が溶出されたことを確認した。また、酸化していない結晶を溶解したサンプルを酸化すると、カップ構造ではなく、アグリゲーションした溶液が得られたため、結晶状態で酸化することがカップ構造を構築するのに重要なことがわかった。現在、ヘムタンパク質であるミオグロビンを含め、数種類のタンパク質を用い、本手法の拡張を行っている。
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