研究実績の概要 |
DNA分子のプログラミング能に着目し、これまでDNA分子自体に基本演算素子(AND, OR, NOT 等)が実装できることが報告されている。一方で、さらに高度な情報処理を実現するには,過去の入力情報を記憶して,その記憶と現在の入力にもとづいて次の出力を決定する計算機構(状態遷移機械)を実現することが必須であるが、これまで報告された試験管内の化学反応回路は,ほとんどが記憶能を持たない論理回路であった。一方で研究代表者が開発した光クロスリンク反応は秒単位で鋳型DNAに対して光架橋する系であるが、秒単位で高速操作できる特徴があり、この高速光架橋反応を組み込むことで、光照射によりDNAの鎖置換反応が数十倍加速することを見出した。昨年度は従来のリボース骨格ではなくアミノ酸骨格(D-トレオニノール骨格)に置換したシアノビニルカルバゾール誘導体(cnvD)を合成し、鎖置換交換反応の加速効果を評価した。今年度は高度なDNA演算の為に必要と考えられる異なった加速効果を有する3種類の光応答性塩基の作成に成功した。またそれら塩基がそれぞれ相補鎖との水素結合様式に応じて異なった加速効果を持つことを見出した。例えばシトシンへの光操作において通常相補塩基はグアニンであるが、イノシンやアミノプリンに変換することでDNA鎖置換反応を3倍から5倍程度高速化させることに成功した。類似配列でありながら光応答性人工塩基(cnvK, cnvDなど)と対象ターゲットシトシンの相補塩基(グアニン、イノシン、アミノプリン)を組み合わせる事で固有の反応係数を有するDNA鎖交換システムが構築でき、複雑な演算処理に向け重要な知見が得られた。
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