研究課題/領域番号 |
26620132
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
渡辺 芳人 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 教授 (10201245)
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研究分担者 |
中島 洋 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (00283151)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | フェリチン / ドラッグデリバリー / エンテロバクチン |
研究実績の概要 |
26年度の研究では、天然の鉄キレート分子であるエンテロバクチンの金属イオン配位子部分構造を忠実に再現したカテコール誘導体を調製し、3回軸チャネルを構成するフェリチンサブユニットの特定の位置(チャネル孔からおよそ0.3nm)にこの分子を選択的に導入することに成功した。カテコール誘導体で修飾されたフェリチン(cat-Fr)は、生理的pH条件(7.4)下、3つのカテコール配位子で鉄(Ⅲ)イオンを結合した鉄-トリス(カテコール)錯体を形成し、その錯形成定数は、~1023M-1であった。この値は、生成した錯体からの鉄イオンの解離平衡が鉄イオン非存在下においても、ほぼ無視できるレベルであることを示している。この錯体は、フェリチンの3回軸チャネル孔にはまり込むように形成されており(X線結晶構造解析により確認、東工大生命理工 上野隆史教授との共同研究)、チャネルを介した分子やイオンの出入りを立体的に阻害可能であることが示唆された。そこで、フェリチンに導入したカテコール誘導体が実際にチャネルに対するゲート(カテコールゲート)として機能するか否か、性状(分子径や親疎水性な)の異なる有機分子を用いて検証した。その結果、芳香族をはじめとする疎水性分子の出入りは、カテコール誘導体を導入していない4回軸チャネル(フェリチンに存在するもう一つの疎水性細孔)を介して進行することがわかり、鉄カテコール錯体の形成に影響されないことがわかった。一方、親水性の有機分子は3回軸チャネルを介してフェリチン内部へ侵入することが分かった。中でも糖骨格を有する分子では、2単糖までが侵入可能であり、カテコールゲート機構によって取込み、放出の制御が可能であることを示す結果が得られつつある。現在、これまでの結果をまとめ、学術雑誌への投稿を準備中である。また得られた結果をもとに、フェリチンへ薬理作用のある分子の取込み方法について検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は、おおむね順調に進行している。予定していたフェリチンチャネルに対するカテコール誘導体ゲート機構の調製に成功し、生理的pH条件で鉄(Ⅲ)イオンと錯形成し、チャネルを強固にキャップする仕組みがこの一年の研究で完成している。カテコールゲート分子に鉄イオンが配位し、フェリチンの3回軸チャネルをキャップした状態の結晶構造が得られたことは大きな成果であり、本研究のコンセプトである「天然の鉄(Ⅲ)キレート剤であるエンテロバクチンの配位構造」をモチーフにしたゲート機構が想定通りに実現されていることが明確に示された。また想定していた配位構造がタンパク質表面から突き出すように生成するのではなく、チャネル孔に埋め込まれるように形成されることは興味深く、埋め込まれた構造を利用したゲート機構への新たな機能付与も考えられる。 調製に成功したゲート機構付フェリチンに対し、芳香族分子がゲートを設置していない4回軸チャネルから出入りすることは、予想外の結果であった。本研究が取り込み/放出を目指す抗血栓作用を有する分子は、クマリン誘導体であるため、今回調製したゲート機構付フェリチンでは、4回軸チャネルを介してフェリチン内部空間へ出入りする可能性がある。実際、クマリンの取り込み/放出の制御はこれまでのところ実現できていない。今後の課題として、4回軸チャネルからの疎水性分子の出入りを抑制する仕組みの実現が挙げられる。一方、単糖分子が3回軸チャネルからのみ出入りすることを見出せたのは成果の一つである。今後、糖を含む分子の取り込み/放出へ応用展開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
27年度は次の3点に絞って研究を進め、「ゲート機構付フェリチンに取り込んだ分子の取り込みと部位特異的放出機構の構築」を目指す。 1.生体内部位特異的分子放出機構の付与:フェリチン表面に位置するアミノ酸残基に対して特定のタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)認識部位を導入し、プロテアーゼが過剰に発現する生体部位において選択的にフェリチンが分解され、内部に包摂された分子が放出される仕組みをつくる。プロテアーゼ認識部位の導入位置としては、フェリチン表面から露出したループ領域を想定しているが、プロテアーゼによる切断効率の評価を通じて、導入位置の最適化を図る。 2.3回軸チャネルを介したクマリン分子の取り込み:26年度の研究により、包摂のターゲットとして挙げたクマリン誘導体がゲート機構を有する3回軸チャネルを経由することなく、疎水性残基で構成される細孔(4回軸チャネル)を介してフェリチン内部へ取り込まれることが明らかとなった。この問題を解決するため、疎水性分子による4回軸チャネルの通過を抑制する設計をフェリチンに施す。具体的には、疎水性チャネルを構成する残基サブユニット当たり3つ存在するロイシン残基を親水性のセリン、スレオニン、あるいは側鎖に電荷を有する残基の交互配置を実施し、細孔内での水素結合、塩橋形成による親水性化を図る。 3.ポリペプチドなど大きな薬理活性分子包摂法の確立:天然の3回軸、あるいは4回軸チャネルを介した包摂が不可能な大きな分子の取り込みを可能にするため、3回軸チャネル部分が大きく揺らぐゲート機構付フェリチンの調製を目指す。フェリチン変異体の一つL134Pは、3回軸チャネルを構成する部分が熱的に揺らぎやすいことが知られている。今年度はこの変異体をもとに、「ゲート機構の導入→トリスカテコール錯体の生成による3回軸チャネル構造の閉鎖→大きな分子の包摂」を実現する。
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