細胞膜は流動的で、不均一な脂質二分子膜であり、外側と内側の膜は非対称である。この膜機能を十分に理解するためには、ナノメートルスケールで、生体膜内外層における脂質分布を観察する必要がある。本研究では、光トラップした金属ナノ粒子をプローブとし、トラップした金属ナノ粒子の高さ位置を変えることで膜の表裏の信号を分離し、金属ナノ粒子の局在型表面プラズモンによって局所的に増強されたラマン信号を検出することにより、細胞膜の内側・外側の脂質配列を用いる粒径程度の分解能でイメージングする計画である。本手法により、生体膜ナノドメインの実体を観察し、脂質ラフトの構造・機能を探ることが目的としている。
表面増強ラマンの準備中に通常のラマン分光でリポソームを測定したとこと、スフィンゴミエリン(SM)の凝集状態が通常のラマン分光で判別できることを見出した。SMとジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)および、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)のリポソームのラマンスペクトルでは、アミドIと呼ばれる主にC=O伸縮振動によるバンドに相違が現れる。SMには1645 cm-1付近に明らかなピークが存在し、SMとDOPCの混合物では、このバンドが肩として現れるが、SMとDPPCの混合物には現れない。この波数域にバンドが出現するのは、水素結合によるSM分子の会合が予想されるので、密度汎関数法を用いて会合体の振動スペクトルを求めた結果、このバンドはSMのモノマーおよびダイマーによることが示唆された。さらに、実験的にもアミド基の炭素を13Cでラベルした試料を用いることで、このバンドがアミドIによることが確認できた。このバンドを用いれば、SMの凝集状態を探ることができるので、脂質ラフトの探求に貢献できると考えられる。
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