研究課題/領域番号 |
26620144
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
阿部 竜 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60356376)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 選択酸化反応 / 光触媒 / 可視光 |
研究実績の概要 |
本研究では、難易度の極めて高い化学反応として知られる「ベンゼン環の直接水酸化による高選択的フェノール類の合成」を、新規酸化タングステン系光触媒を用い、酸素と水分子のみを反応剤として可視光照射下で実現することを目的としている。本年度の実績の概要を以下に記す。 (1)酸化タングステン系光触媒における選択的ベンゼン直接水酸化反応の機構解明 酸素の安定同位体を用いた機構解明から、酸化タングステン系光触媒では、水溶液中にベンゼンやアルコールなどの有機化合物が存在する場合であっても、光照射によって生成した正孔は水分子を優先的に酸化して水酸化ラジカルを生成し、これがベンゼンと反応することで選択的なフェノール生成が進行することが示された。一方で、一般的な酸化チタン光触媒を用いた場合には、水溶液中に含まれる有機化合物が酸化チタン表面に強く吸着し、正孔によって直接酸化されて芳香環開裂や過全酸化が進行し、フェノールへの選択性が低下することが示唆された。また、アルコール類からのケトンの選択酸化などにも有効であることを見出した。 (2)白金を代替可能な卑金属系助触媒の探索 これまで、酸素還元活性の高い白金助触媒を担持することが必要であったが、クラスター状で銅イオンを担持させることにより、この銅クラスター上において励起電子による酸素の2電子還元が促進され、白金助触媒と同等以上のベンゼン水酸化活性を示すことを見出した。 (3)流通系への展開の予備検討 光触媒粒子を反応溶液中で撹拌しながら光照射を行う「バッチ式」の反応では、生成したフェノールの逐次酸化による選択率の低下を完全に抑制することは困難である。そこで、固定化した光触媒を用い、流通式での反応を検討した結果「バッチ式」に近い効率でフェノール生成が進行し、また生成物の定性・定量からベンゼンおよびフェノールの芳香環開裂が効果的に抑制されていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画において掲げていた3つの「研究の目的」のうち、「酸化タングステン系光触媒における選択的ベンゼン直接水酸化反応の機構解明」については、ほぼ目的を達成しており、次年度からはこの結果を基にして、2つ目の目的である「高活性化および選択性向上の指針確立と実証」を進める予定である。また、3つ目の目的であった「流通系への展開によるフェノール類への選択性向上と連続抽出の実証」に関しては、初年度に予備検討を終え、その有効性を確認している。さらに、これまで本光触媒系の1つの課題であった、高価な白金助触媒の使用、についても、銅イオンのクラスターを用いることによって、同等以上の反応速度が得られることを確認している。以上のことから、本研究計画の現在までの達成度は、おおむね順調に進展している、と言える。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる平成27年度は、当初より掲げていた研究目的のうち、まだ検討を進めていない「高活性化および選択性向上の指針確立と実証」を集中的に進める。また、初年度に見出した、他の有機合成系への適用可能性についても、ターゲットを絞った上で検討を進める。最終目標である「流通系への展開によるフェノール類への選択性向上と連続抽出の実証」については、上記2つの検討項目の進捗具合に合わせて、検討を進め、最終年度である平成28年度内に、目的を達成できるよう全力を尽くす。
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