本年度は、これまで展開してきた貴金属型酸化タングステン光触媒を用いる有機物選択酸化反応のさらなる展開を目指した検討を進め、以下のような成果が得られた。 (1)従来のバッチ式光反応装置では、目的生成物が光触媒粒子と同じ相に存在し接触し続けるため、一度生成した生成物の逐次酸化を完全に抑制することは困難であると考えられる。そこで酸化タングステン光触媒粒子をガラス基板上に固定化して、その上を反応物を通過させながら光照射を行う流通系反応システムを構築し、各種アルコールからの高選択的アルデヒドおよびケトン類の生成を目指した。流量と光触媒粒子のガラス基板への固定化法の最適化により、バッチ式に比べて高い選択率を達成した。 (2)上記では直鎖のアルコール類の選択酸化を検討したが、さらにベンジルアルコールなどの選択酸化反応などへの適用も検討した。パラジウム種を助触媒として担持した酸化タングステン光触媒を用いると、従来の酸化チタン光触媒を用いた場合よりも高い選択率でベンズアルデヒドが生成し、かつ完全酸化による二酸化炭素の生成が著しく抑制されることを見出した。さらに、選択酸化反応の展開を目指し、直接反応が極めて困難とされるアダマンタンへの水酸基導入による高付加価値生成物の合成を試みた。少量の水を含むアセトニトリル中で反応を行うと、1-アダマンタノール、2-アダマンタノール、2-アダマンタノンの生成が確認され、アダマンタンの水酸化が進行することを明らかにした。 (3)昨年度までに水熱反応により結晶面が露出した酸化タングステン光触媒を合成し、これが水の酸化に対して高い選択性を示すことを見出してきた。平成28年度は、水熱反応を行う際の前駆体溶液のpHやアルカリ金属を添加することが生成物に与える影響に着目し、微量のナトリウム源を加えることにより水の酸化活性が飛躍的に向上することを見出した.
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