研究課題/領域番号 |
26620154
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大久保 敬 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任教授 (00379140)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 有機微粒子 / フラーレン / レーザーフラッシュフォトリシス / 光反応 / 水素 / 光線力学療法 / 励起状態 |
研究実績の概要 |
1. カーボンナノチューブを光触媒とする水素発生反応 SWCNTsのベンゼン分散液にパルスレーザー光を照射すると効率的に水素が発生し、2時間のレーザー光照射における発生量は100 μmolに達した。また、反応溶液のGC-MS、HPLC分析によりビフェニルおよびターフェニルの生成が確認され、同時に水素が生成していることが分かった。初期の水素発生速度はレーザー光強度の4乗に比例し、4光子が関与する反応であることがわかった。また、82 mJ per pulseのレーザー光強度における水素発生の量子収率は130%となった。水素発生のメカニズムは次のように考えられる。カーボンナノチューブが2光子吸収により励起され、この励起状態がベンゼンを1電子還元する。生じたベンゼンラジカルアニオンは2分子でダイマー化し水素発生を伴いながらビフェニルのジアニオンを生成する。このジアニオンが再びベンゼンを還元し、生成したラジカルアニオン同士のカップリングによりさらに水素が発生する。このようなサイクルが連鎖的に起こることにより量論量以上の水素が発生し、量子収率が100%を越えたと考えられる。また、本水素発生系では2光子励起で生成するベンゼンラジカルアニオンを2分子必要とするため合計4光子が必要になる。 2. レーザーパルス光照射により高分散化されたリチウムイオン内包フラーレンナノ粒子を用いた水中一重項酸素生成 リチウムイオン内包フラーレン(Li+@C60)の水分散液に、窒素雰囲気下パルスレーザー光(λ = 355 nm)を照射することで、平均30 nmの大きさにナノ粒子化した高分散水溶液が得られた。酸素飽和重水溶液中、このナノ粒子 (Li+@C60)nの一重項酸素生成の量子収率は55%に達した。また、(Li+@C60)nとpBR322 DNAを含むバッファー溶液(pH 8.0)に光照射(λ > 380 nm)を行った後、アガロースゲル電気泳動を行った。その結果、一重項酸素により切断されたDNAが検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レーザー光照射下、有機微粒子の作成がカーボンナノチューブやフラーレンで効率よく起こることが見いだされたので、一気に研究が進んだ。カーボンナノチューブ微粒子は非常に効率の良い水素発生触媒、フラーレンナノ微粒子は一重項酸素発生触媒となることを発見し、それぞれ、各種分光学的測定によって、反応機構の詳細について調べることができた。その成果が学術論文2編に投稿し、すでに受理または掲載されている。 これまでの水素発生触媒系では、金属錯体などの触媒が必要であったが、本発明はメタルフリーの条件で行うことが可能であるのでグリーンケミストリーの観点からも優れている。また、これまでに知られている光触媒系では、プロトンを還元するために電子源として酸化的犠牲剤(アスコルビン酸やアミンなど)が、水素発生量と等モル量またはそれ以上必要であったが、本触媒系では、全くそのような物質を必要とせず、溶媒を水素源として利用できる点が従来の水素発生触媒系に比べ格段に優れている。また有機ナノ微粒子を光触媒として利用した系は、本研究が初めてであり、さらに興味深いことは、微粒子かすることで元々の有機化合物の有する反応性以上の触媒反応活性を起こすことが可能となることである。無機半導体などを用いたケミストリーが、無機ナノ粒子化したことで、爆発的に飛躍したのと同じように、今後、この研究をベースとした学術領域が飛躍的に拡がると確信する。
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今後の研究の推進方策 |
酸素発生触媒との組み合わせによる水の完全分解 水中水素発生系が構築できたので、酸素発生触媒と組み合わせ、水の光分解について検討を行う。ナノ粒子中に発生する電子はプロトンの還元に利用され水素を発生するが、ホールは酸素発生触媒に移すことで水の完全分解が可能となる。Pyラジカルカチオンの一電子還元電位1.2 V vs SCE程度と予想され、これは水の酸化触媒として知られているルテニウムポリオキソメタレート錯体RuIIIPOM ([RuIII(H2O)GeW11O39)の酸化電位 (1.0 V vs SCE) よりも高いので、RuIIIPOMから電子を取り出し、高原子価RuIV=O種の生成が可能であると考えられる。これまでの研究によって高原子価RuIV=O種(RuV(=O)POM)できれば非常に効率よく、水を酸素に酸化することができることが分かっているが(J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 11605)、犠牲的酸化剤である[CoIII(NH3)5Cl]2-が必要であった。本研究で提案する光触媒系では、犠牲剤が不要となり2H2O → 2H2 + O2 の反応量論式で光触媒反応が進行する。水素は次世代燃料として最近注目されていることから、挑戦の価値は十分にある。また、水の酸化触媒は、RuIIIPOM以外にも様々なものが知られているので、それらの中から最適な触媒を探索するとともに、より活性の高い触媒系への最適化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた、色素分子の有機合成が、市販品で代用が可能になったために大幅にコストを削減することができた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度でコストカットできた余剰金を使って、高価な金属触媒などの購入に充てることによって、本研究を加速度的に進展させたいと考えている
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