研究課題
本応募は高い円偏光発光効率と高い蛍光量子収率を示す熱活性化遅延蛍光(TADF)分子を構築し、有機ELディスプレイへの応用を目指す研究に関するものである。電気エネルギーを100%の効率で光へ変換するTADF分子が報告されているが、有機ELディスプレイでは、高コントラスト化のために挿入された偏光板により発光成分の半分が吸収されロスになっている。もし高い円偏光発光機能を示すTADF分子が開発されればこの問題が解決される。応募者は最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)が分離されたTADF分子の設計に、HOMOとLUMOをキラルな関係に配置し、さらにHOMOとLUMOの分布を広げるという新しい設計を加えることで、高い発光機能と円偏光発光性能を両立するTADF分子の構築に挑戦する。平成26年度は、DFT計算を用いてHOMOとLUMOがキラルな配置になる化合物としてTPANを設計した。TPANを合成するとともに、エナンチオマーを光学分割カラムにより数mgの量で分離した。そのTPANのエナンチオマーからは10-3の非対称性因子(g)を有する円二色性と円偏光発光が観測された。さらに大きなHOMOとLUMOの分離に起因してTADFが観測された。このように円偏光発光とTADFが同時に観測される分子は初めてである。さらに、光吸収後の大きなコンフォメーション変化により円二色性と円偏光発光の符号が反転するという興味深い特性が観測された。一方で光励起時の発光量子収率は26%と低い値に留まっているため今後改善が必要とされる。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は、トリフェニルアミン部位をドナーとしてナフタセノン部位をアクセプターとして新規色素(TPAN)を合成した。そのTPANのエナンチオマーからは10-3のgを有する円二色性と円偏光発光が観測された。さらに大きなHOMOとLUMOの分離に起因してTADFが観測された。このように円偏光発光とTADFが同時に観測される分子は初めてであるため、現在学術論文に投稿中である。さらに、光吸収後の大きなコンフォメーション変化により円二色性と円偏光発光の符号が反転するという興味深い特性が観測されている。また平成26年度には大きな円偏光発光特性を計算科学の手法によりスクリーニングする手法を習得した。すでに発光量子効率を計算科学の手法により推定することはできているため、今後の大きな発光量子収率と円偏光発光収率を実現する化合物を探索する上で役に立つと考えられる。以上から当初の研究計画通りに研究が進行している。
平成27年度以降は、まず10-3程度の円偏光発光のg値を保ちつつ、発光量子収率を改善させる分子設計に取り組む。具体的には、平成26年度に開発した分子は依然として一重項励起状態と三重項励起状態のエネルギー差(ΔEST)が大きいため、これを最小化させる分子設計に取り組む。具体的には、最低励起三重項状態を純粋な電荷移動状態にする設計を取ることで上記を達成する。同時にHOMOとLUMOをキラルな関係に配置し、さらにHOMOとLUMOの分布を広げるという新しい設計指針の下、DFT計算により大きな振動子強度と大きな円偏光発光を示す分子を探索する。設計した該当分子を合成し、TADF特性および円偏光発光特性を評価する。光励起において50%以上の大きな発光量子収率と10-3程度のg値が得られる分子が見出された後は、EL素子を作製し、EL素子の外部量子効率およびELのg値を計測する。
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Nat. Mater.
巻: 14 ページ: 330-336
doi:10.1038/nmat4154
http://www.rsc.org/chemistryworld/2014/12/designing-efficient-blue-organic-led-scratch