研究課題/領域番号 |
26620165
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
平田 修造 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (20552227)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 円偏光発光 / g値 / 熱活性化遅延蛍光 / TADF / 有機EL |
研究実績の概要 |
本応募は高い円偏光発光効率と高い蛍光量子収率を示す熱活性化遅延蛍光(TADF)分子を構築し、有機ELディスプレイへの応用を目指す研究に関するものである。電気エネルギーを100%の効率で光へ変換するTADF分子が報告されているが、有機ELディスプレイでは、高コントラスト化のために挿入された偏光板により発光成分の半分が吸収されロスになっている。もし高い円偏光発光機能を示すTADF分子が開発されればこの問題が解決される。応募者は最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)が分離されたTADF分子の設計に、HOMOとLUMOをキラルな関係に配置し、さらにHOMOとLUMOの分布を広げるという新しい設計を加えることで、高い発光機能と円偏光発光性能を両立するTADF分子の構築に挑戦する。 平成27年度は円偏光発光とTADFの両特性を示す分子を論文化した。しかし、この論文で報告した分子の光励起時の発光量子収率は26%と低い値に留まっていた。そのため、DFT計算を用いて他の分子設計および有機合成を行い、薄膜状態で100%近い発光量子収率を示し、円偏光発光特性を示す分子を見出した。しかし、この分子の発光の非対称性因子(g)は溶液中で4×10-4と小さい値に留まった。最低励起状態におけるDFTの結果から、この理由はHOMOとLUMOの非対称性が小さいことに由来していると考えられる。また、この分子を用いて有機EL素子を作成したところ、外部量子効率10%の電界発光が得られ、蛍光を用いた場合の理論限界(5.0-7.5%)を大きく超える特性が得られた。最終年度はg値を向上させる取り組みを多角的に行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は円偏光発光とTADFの両特性を示す分子を論文化した。このように円偏光発光とTADFが同時に観測される分子は初めての報告である。平成26年度に検討した分子は、発光量子収率が26%と低い値に留まったが、平成27年度は、円偏光発光とTADFの両特性を示す分子において100%近い発光量子収率を得ることに成功した。さらにEL素子に応用した際に、TADF特有の大きなEL外部量子収率を確認することができた。 今後円偏光発光のg値も向上させる必要があるが、現在10-2程度のg値も観測され始めている。それゆえ、最終年度は円偏光発光とTADFの両特性を示す分子において、大きな発光量子収率と大きなg値を両立する分子の内容で研究をまとめる予定である。 以上から当初の研究計画通りに研究が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、大きな発光量子収率(50%以上)および大きな円偏光発光のg値(10-2~10-1)が得られた構造に関して、どうしてそのような大きな特性が観測されるのかの考察を光物性計測、およびDFT計算を用いて行う。上記原因も含め学術論文に成果をまとめる。
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