本応募は高い円偏光発光効率と高い蛍光量子収率を示す熱活性化遅延蛍光(TADF)分子を構築し、有機ELディスプレイへの応用を目指す研究に関するものである。電気エネルギーを100%の効率で光へ変換するTADF分子が報告されているが、有機ELディスプレイでは、高コントラスト化のために挿入された偏光板により発光成分の半分が吸収されロスになっている。もし高い円偏光発光機能を示すTADF分子が開発されればこの問題が解決される。応募者は最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)が分離されたTADF分子の設計に、HOMOとLUMOをキラルな関係に配置し、さらにHOMOとLUMOの分布を広げるという新しい設計を加えることで、高い発光機能と円偏光発光性能を両立するTADF分子の構築に挑戦する。 平成27年度までに円偏光発光とTADFの両特性を示す分子を論文化し、薄膜状態で100%近い発光量子収率と円偏光発光特性を示す分子を見出した。しかし、この分子の発光の非対称性因子(g)は溶液中で4×10-4と小さい値に留まった。 平成28年度は合成した分子の薄膜状態でのTADF特性および円偏光発光特性を評価した。円偏光発光とTADFの両特性を示すキラル分子のいくつかは溶液中の孤立状態ではgが10-3であったが、スプレーコートした薄膜状態では10-1に迫る大きな値が得られることを見出した。また、蛍光量子収率は脱気溶液中と薄膜中とでほとんど変化せず40%程度の値を保ちTADF特性も維持された。蛍光量子収率が低下しない理由が会合時の非輻射失活速度が抑制されており、分子動力学計算および量子化学計算からそれは発光が分子間遷移に強く依存しているためであることが明らかになった。
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