研究課題/領域番号 |
26620166
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
由井 樹人 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (50362281)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | CO2還元 / 光触媒 / 半導体膜 / 金属ナノ粒子 / 固体膜 |
研究実績の概要 |
本件研究では、CO2の光還元が可能な膜状触媒の開発を目的に、膜状層状半導体とCO2還元触媒との複合化について検討を行っている。これまでの研究では代表的なCO2還元触媒であるレニウム錯体(Re錯体)と層状半導体膜(K4Nb6O17: 以下NbO膜)の複合化を検討したが、通常のイオン交換法ではNbO膜層間にRe錯体を導入できなかった。これらの結果を踏まえて、2つの研究方針を立案し実行した。 1.新規レニウム錯体の合成:NbOとより強固な相互作用が可能な置換基である、フォスフォン酸基(ReP)を有する新規レニウム錯体の合成を行った。粉末状NbOとRePとの複合化を世界に先駆けて成功した。このReP/NbO複合体を、脱酸素状態のメターノール中で光照射を行ったところ、光照射に伴いRePの還元種が生成したことを強く示唆する結果を得ることができた。RePの還元種は、CO2を還元する重要な活性中間体であり、本系がCO2還元触媒としてのポテンシャルを有していることを強く示唆している。現状は、CO2存在下での検討を行えていないため、CO2還元の効率などについては検討を行えていないが、来年度以降の進捗が大いに期待できる結果である。 2.金属ナノ粒子と半導体複合膜の作成:金属ナノ粒子は、光触媒や増感剤として非常に興味深い材料群であり、酸化銅などはCO2還元触媒として機能することが報告されている。本検討では、透明な層状半導体膜の合成を行うととともに、層状半導体膜と金属ナノ粒子の複合化について検討を行った。半導体層間に金属イオン種を導入したのち還元剤で処理するという非常に簡便な手法で、金属ナノ粒子/半導体からなる透明複合膜の合成に成功した。現在、光触媒特性などについて検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの検討で、通常のレニウム錯体と膜状層状半導体の複合化が困難であることを明らかにしてきた。この点を克服するため、以下の3テーマを実施し、それぞれ十分な進捗が認められた。 1.新規レニウム錯体の合成: 層状半導体と複合化可能な新規レニウム錯体として、フォスフォン酸基を有するRePの合成に成功した。また、層状半導体膜と複合化が可能と考えられる、アンモニウム基を有するレニウム錯体(ReN)の合成に世界で初めて成功している。ReNについては、剥離した層状化合物と複合化が可能であることをすでに見出しており、膜状半導体でもReNとの複合化が可能であると予想している。 2.RePとNbOとの複合化:層状半導体とレニウム系錯体の複合化に、世界で初めて成功した。さらに、複合体への光照射に伴いRePの還元種の生成や光水素発生などが認められたことから、ReP/NbOは光触媒として機能することを明らかにしている。 3.透明半導体膜の作成と金属ナノ粒子との複合化:層状半導体を用いて透明な膜を作成する手法として、layer-by-layer法やLB法などが多く検討されている。しかし、これらの手法は非常に多くの手間を必要とする割には、極めて薄く少量の半導体しか基板に堆積できず、十分な光吸収量を有する膜を作成することは困難である。この点を克服するため、低温焼成法により十分な膜厚と光透過性を有する半導体膜の合成に成功した。さらに、含浸法により金属イオン種を層状半導体層間に導入したのち、化学還元法処理を施すことで膜状かつ透明な半導体/金属ナノ粒子複合体の合成に成功している。これまで合成に成功したナノ粒子はAu, Cu, Ag, Ptであり、特に銅系のナノ粒子は新たなCO2還元触媒として注目されており(Nature 2013)、今後の展開が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況に述べた3テーマをさらに推進していく予定である。すなわち 1.層状半導体膜とRe錯体との複合化:新規合成したReNをもちいて半導体膜との複合化を行う。前述のように、NbO粉末とRe錯体との複合体では、CO2還元触媒としての可能性が示されたため半導体としてNbO膜を用いる。現在、低温処理法によるNbO透明膜の合成に成功しており、早急にNbO膜とReNとの複合化を検討する。 2.ReP/NbO粉末触媒の展開:上記のようにReP/NbOがCO2還元触媒としての可能性を明らかにした。しかし現段階では、この複合体が粉末状である点、および触媒としてはRePの還元種や水素生成しか確認できていない点で問題がある。今後は、積極的にCO2雰囲気下での反応を行い、CO2還元の可能性やその効率などを評価する。さらに、1の課題のように膜状の複合体を合成し、膜状での光CO2還元反応へとつなげていく。 3.透明半導体膜/金属ナノ粒子複合体の光反応:今年度合成した金属ナノ粒子複合体を用いて光反応を行い、錯体だけでなく金属ナノ粒子でも触媒能を発揮するかを十分に見極め流。最終的には1~3のテーマの優位点のみを抽出することで、膜状CO2光還元触媒とくに固体-気体界面での触媒反応系へとつなげていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬の使用量が想定以下であったため、若干の金額が未使用となった。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度のため、試薬の使用料として使用予定である。
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