前年度に見出した、セルロースナノ結晶(CNC)を触媒とするL-アラニンエチルエステル塩酸塩モノマーの重合系で得られた生成物を同定した結果、二量体および三量体オリゴマーが主生成物であることが分かった。生成量の温度依存性を検討した結果、生成量は30℃が最大であった。また、pH依存性を検討した結果、CNCは中性及び弱酸性条件においてペプチドの合成反応を促進することが分かり、多量体の生成量は中性条件の方が多かった。このように、CNCはアミノ酸エチルエステルを基質に用いたペプチドの合成反応を促進すること、中性、30℃が適切な条件であることが示唆された。 得られた知見をもとに、他のアミノ酸エチルエステルであるL-ロイシンエチル塩酸塩、L-トリプトファンエチル塩酸塩、L-セリンエチル塩酸塩を基質として、CNCによる重合反応を検討した結果、前述のアラニンエチルが最も多くの二量体の生成が確認され、次いでロイシンエチルであった。一方、トリプトファンエチルやセリンエチルではCNCによる多量体の生成は見られなかった。CNCにより二量体の生成が促進されたアラニンやロイシンは疎水性のアミノ酸として知られており、一方、CNCの効果が見られなかったトリプトファンやセリンはアラニンやロイシンよりも親水的であることが知られている。従って、CNCは疎水的なアミノ酸基質を選択的に、縮合反応を触媒する可能性が示唆された。以上の結果より、CNCによるアミノ酸エチルエステルを用いたペプチドの合成反応はアミノ酸特異的であることが明らかになった。
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