研究課題
【はじめに】セルロースナノファイバー(NF)をはじめとするバイオNFは,高アスペクト比を持つため,配向性付与により新たな機能開拓が期待される。本研究では,細胞の成長挙動に及ぼす基材中のNFの配向性の効果を調査することを目的としている。昨年度は,可撓性の親水性ポリマーマトリックス(PM)にキチンNF(ChNF)を埋め込んだ複合体について,ガラス転移点(Tg)を制御でき,混練押出やフィルム延伸といった熱加工により配向性付与に成功した。今年度は,新たにキトサンNF(ChtNF)並びに表面アセチル化ChNF(Ac-ChNF)を調製し,同様にPMとの複合体を得て,NFの表面官能基が及ぼす物性や配向性への影響を調べた。【実験方法】NF分散液とPM水溶液を混合・キャストして複合体を得た。ChNFの表面アセチル化は,酢酸ビニルモノマーを用いたエステル交換反応により行った。一連の複合体を示差走査熱量(DSC)測定および動的粘弾性(DMA)試験に供するとともに,フィルムの延伸配向挙動を調査した。【結果と考察】異なるNFを用いて調製した各複合体において,NF含有率によるTgの変化は大きくないものの,NF種による変化が大きく,Ac-ChNF⇒ChNF⇒CtsNFの順にTgは上昇した。Tgの上昇はNFの分散性が高いことを示し,その違いにはNFとPM間の相互作用が寄与している:ChNF系と比較して,Ac-ChNFはヒドロキシ基がアセチル化されることにより水素結合が低減し,アセチルアミド基が脱アセチル化されているChNFでは水素結合の頻度が増加していると考えられる。延伸実験の結果,Ac-ChNF系では延伸直後から配向緩和が観られた。これはAc-ChNFとPM間の相互作用が弱いことを裏付けている。以上の結果から,NFのPM中の分散性は,NFの表面修飾によって精密に制御できることが見出された。
【受賞】the best poster presenter (the 3rd Place) in the 7th International Symposium of Indonesian Wood Research Society 2015 (Tetsuya Katsuragawa, Morihiko Yokoi, Ryosuke Kobe, Yoshikuni Teramoto)
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件)
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10.1002/app.42906
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