研究課題/領域番号 |
26620182
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
網代 広治 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究推進センター, 准教授 (50437331)
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研究分担者 |
明石 満 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20145460)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 高分子構造・物性 / 高分子系複合材料 / ステレオコンプレックス |
研究実績の概要 |
高分子相互作用に関わるファンデルワールス相互作用について、単一高分子鎖に働く力を見積もることにチャレンジすることが目的であった。今年度に実施した実験は、試料としてポリ(L-乳酸)およびポリ(D-乳酸)を用いて、これらのスピンコート薄膜をガラス基板上に調製し、互いに張り合わせることでその海面における構造変化を観察した。また圧縮して引きはがすときの力を測定し、これらを数値化する実験を行った。スピンコート薄膜のサンプルと交互積層薄膜のサンプルを比較して行うことで優位な差が得られた(学会ポスター賞)。 また、シリカゲル表面のヒドロキシル基やアミノ基を利用してポリ乳酸を結合させた粒子を調製した。今後、当初の計画通り相互作用を見積もる予定である。 ポリ乳酸と親水性ポリトリメチレンカーボネート誘導体とのブロック共重合体を用いて、そのスピンコート薄膜が調製条件によって偏析する様子を観察し、ポリ乳酸の結晶化など界面における高分子鎖の集合様式を観察するとともに、再表面の組成を観察した(論文受理)。 ポリメタクリル酸メチルのアイソタクチック体とポリメタクリル酸のシンジオタクチック体を用いて、基板上に交互積層薄膜を形成した。ここから、単一成分を抽出除去することで多孔性薄膜を得る従来の手法でテンプレート重合反応場の構築を利用し、重合の温度効果を調べることで、相互作用の見積もりにチャレンジした(論文受理)。高分子間相互作用に関連して、高分子鎖同士の光反応を利用したゲル形成を行った。架橋点の密度が影響することを明らかとした(論文受理)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究の達成度は、おおむね順調である。その理由は、ステレオコンプレックスを形成するポリ乳酸やポリメタクリル酸について、既に今年度内に実験を開始したこと、ある程度の成果が得られ、論文2報受理されたからである。 平成26年度は、研究計画書に記載した通り、順調に実験を遂行した。まず、ポリ(L-乳酸)およびポリ(D-乳酸)高分子間相互作用を提案した手法で確認した。つまり、溶媒を挟み込んだり、加熱したりする種々の条件で、界面における高分子間相互作用が働くかどうかをX線結晶構造解析により観察を行った。 また、スピンコート薄膜を圧縮してその時の引き離す力をバネはかり法によって測定した。スピンコート薄膜と交互積層薄膜を用いて実験を行い、測定結果に違いを観測することができた。これらの結果から、高分子鎖のコンフォメーション、配向、および結晶性などの状態の違いによって高分子間相互作用に働く力が異なることが示唆された。交互積層法から得られたサンプルではステレオコンプレックスを既に形成しているため、界面において圧縮した場合、スピンコート薄膜で観測された力と比べて小さな値を示した。これらの結果は、本研究の目的を一部達成したものと言える。 また、実験を進めるうちに高分子間相互作用に関連して、新たな実験系を取り入れた。例えばこれを類似の高分子を試料として用いることで、当該研究課題の目標達成に向けて異なるアプローチを取り入れている。溶液状態をモデルとして提案していたが、これはヒドロゲル形成を実験的に扱っている。高分子鎖に反応点を導入し、その架橋点の濃度や溶液濃度を変化させることでゲル系性能を比較した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策について、まずは研究計画書に記載した通りシリカゲル粒子を基板としてポリ(L-乳酸)およびポリ(D-乳酸)を結合させたサンプルを調製する。さらに、平面基板上にポリ(L-乳酸)およびポリ(D-乳酸)を結合させたサンプルも調製する。これらの粒子を平面基板に挟み込んで圧縮させ、引張強度を調べることから、高分子間相互作用の力を見積もる。さらに、ポリ(L-乳酸)、ポリ(D-乳酸)の組み合わせやポリ(L-乳酸)同士の組み合わせとを比較して、選択的な接着力の違いを検討する。 また、2種の基板上にそれぞれit-PMMAおよびst-PMMA(またはPLLAおよびPDLA)の薄膜を調製する。なお、片側の基板には薄膜を有しない基板の組み合わせを比較とする。この間隙へ高分子に運動性を与える条件(溶媒・温度・添加物など)を施し、ステレオコンプレックス化によって接着させる。接着剤を用いない界面接合に挑戦する。 ポリ(L-乳酸)/ポリ(D-乳酸)ステレオコンプレックスの融解エンタルピーが142 J/gであり、アイソタクチックポリメタクリル酸メチル/シンジオタクチックポリメタクリル酸メチルのステレオコンプレックスの融解エンタルピーは145℃40時間アニーリングした場合約20 J/g程度であることが知られているので、各サンプルについて示差熱分析により融解エンタルピーを算出し、これを引っ張り強度の結果と比べてモル計算する。また、単一高分子鎖あたりのエネルギーを比較する。最終的に水素結合や静電的相互作用を除いた力を見積もることで、ステレオコンプレックス化に働くファンデルワールス力を算出することに挑戦する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は、研究開始時には大阪大学所属であったが、昨年度中に奈良先端大学へ異動して新しい研究室を立ち上げる必要があった。そのため、実験室設計および工事に時間を必要とし、該当期間中には当初予定していた試薬の購入が中断せざるを得ない状況となったから、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究代表者の異動が決まった時点で研究計画の修正を行っており、研究成果には支障をきたしていない。しかし、当初購入予定であった試薬等を異動先の奈良先端大において購入し、引き続き本研究課題を異動先で執行する計画である。
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