研究課題/領域番号 |
26620184
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 尚弘 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10196248)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 光散乱法 / ミセル / 両親媒性高分子 / 疎水性物質内包ミセル / 包摂錯体 / アイオノマー |
研究実績の概要 |
現在活発に研究されているナノテクノロジーに基づいて、医療やロボットなどをはじめ様々な分野で目には見えない小さい製品が実用化された場合、その品質・安全性管理に光散乱法はなくてはならない基盤計測技術となる。しかしながら、光散乱法には欠点があり、測定溶液系に僅かなゴミや溶解の不完全性による不溶成分がごく微量混在すると測定結果に重大な影響を及ぼし、正しいデータ解析が行えなくなる。また、高濃度の溶液系の光散乱データには、粒子間相互作用の効果と多重散乱の効果が含まれていて解析が難しい。本研究では、これらの欠点を解消するために、光散乱データから必要な光散乱成分のみを自動的に抽出し、非理想的な溶液系に対する光散乱データも正しく解析できる手法を開発することを目的に行われている。 本年度は、ナノテクノロジー分野で重要と考えられる、①会合性高分子、②コロイド粒子、③超分子ポリマー、④高分子・コロイド複合体の代表例について光散乱測定を行い、個々に正しいデータ解析法の確立に努めた。 具体的には、水溶液中で花型ミセルやフラワーネックレスを形成するマレイン酸とドデシルビニルエーテルの交互共重合体(P(MAL/C12))に低分子界面活性剤(Triton-X100)および低分子の疎水性物質(ドデカノール)を添加した系、やはり水溶液中で球状ミセルを形成する低分子界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルピリジニウムクロリド)に低分子の疎水性物質(ドデカノール)を添加した系、およびメタノール-水混合物に会合体・コロイド粒子として分散するアイオノマーの一種である親水化ポリ(ジメチルシロキサン)(HMPDMS)について、静的光散乱と動的光散乱を組み合わせて調べ、それら溶液中での高分子・低分子集合体の構造を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記のいずれの系においても、溶液中に微量の分子会合体が存在し、静的光散乱において、低散乱角での異常散乱が観測された。この異常性を除くために、動的光散乱を同時に測定し、その緩和時間スペクトルを利用して、異常散乱成分を含まない主要散乱成分に対する散乱関数の抽出に成功した。そして、得られた主要成分の散乱関数を利用して、以下の事柄を明らかにすることができた。 (1)低分子界面活性剤と低分子の疎水性物質を混合した水溶液系での主要成分である疎水性物質取り込み球状ミセルは、通常の球状ミセルと同じ解離会合平衡式で記述でき、臨界ミセル濃度付近でも異常な挙動は示さなかった。 (2)両親媒性交互共重合体(P(MAL/C12))に低分子の疎水性物質を加えた水溶液での主要成分である花型ミセルは、疎水性物質取り込みにより構造変化を起こし、その構造変化により項目(1)の低分子界面活性剤が形成する球状ミセルよりも疎水性物質をより多く取り込むことができることを明らかにした。 (3)両親媒性交互共重合体(P(MAL/C12))に非イオン性の低分子界面活性剤を加えた水溶液での主要成分は、P(MAL/C12)のドデシル基を内包した低分子界面活性剤ミセルとP(MAL/C12)鎖の複合体を形成し、剛直な線状鎖として溶液中に存在することを明らかにした。 (4)親水化ポリ(ジメチルシロキサン)(HMPDMS)は、水の含量が50 vol%より低いメタノール-水混合物にはわずかに会合した状態で溶解するが、水の含量が50 vol%を超えると、相分離を起こし2相状態となる。ただし、溶解直後の濃厚相はコロイド状で、ゆっくりと凝集する。 なお、上記の研究成果を紹介した光散乱法に関する教科書「光散乱法の基礎と応用」を講談社サイエンティフィックより発刊した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、順調に成果を上げており、また今年度は予定にはなかった光散乱の教科書を発刊して、同方法の教育・普及に寄与できた。来年度は、静的光散乱と動的光散乱に電気泳動光散乱をさらに組み合わせ、より複雑な分子集合体の構造解析法の確立を目指す。
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