研究課題/領域番号 |
26620185
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
山下 誠 中央大学, 理工学部, 准教授 (10376486)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 材料加工・処理 / 石炭ピッチ / 炭素繊維 / アルキル化 |
研究実績の概要 |
平成26年度は(1)熱処理温度を変えた不融化ピッチライブラリの調製、(2)不融化ピッチのアルキル化反応による可溶化と物性解明、の二点について研究を行った。 (1)では紡糸処理を行った石炭ピッチを管状電気炉により空気を流通させながら加熱する温度を200-400℃で50℃ずつ変化させて不融化ピッチを調製した。得られた不融化ピッチを元素分析、XPS、IRにより分析したところ、加熱温度が高い方が酸素含有量が多く、含有酸素の多くはカルボニル基であることがわかった。しかし350℃以上で加熱した場合は重量の減少が見られ、一部の炭素成分が酸化して二酸化炭素になることが示唆された。一方、加熱前の粒子サイズと不融化ピッチの性質の間に相関は見られなかった。 (2)では不融化ピッチの塩化メチレン不溶分に対してアルキル化を行ったが、350℃以上で加熱した不融化ピッチに対してはアルキル化がほとんど進行しなかった。これはカルボニル基が多く導入されて溶解度が下がったためだと考えている。一方、300℃で1.5時間焼成した不融化ピッチの塩化メチレン不溶分に対して1-hexyl,2-ethylhexyl,1-dodecyl,p-dodecyloxyphenyl基を導入したアルキル化ピッチを調製した。いずれにおいても不融化ピッチに比べて溶解度の向上が見られ、IRによりカルボニル基の減少とOH基の増大を観測した。吸収・蛍光スペクトルでは長波長シフトが観測された。GPCによる分子量測定を行ったところ、より高温で焼成したアルキル化ピッチの方が分子量が増加していた。アルキル化ピッチをAr雰囲気下、300℃で焼成したところ、IRスペクトルにおいて水酸基の減少が観測されると共に、TG-DTAにて水分子の脱離によると考えられる重量減少も確認された。アルキル化ピッチのXRD測定により、これらがrGOやgraphiteに比べて少し長い層間距離を持つこと、アルキル基が長くなるほど層間距離が大きくなることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究項目(1)においては当初の計画通り不融化行程の熱処理温度を変化させることで、その温度範囲の上限を見極めると共に、得られる不融化ピッチの酸素含有量が熱処理温度に依存して変化すること、粒子サイズは不融化ピッチの性質には影響を与えないこと、を見いだした。研究項目(2)では不融化ピッチに対して複数種類の異なるアルキル基を導入し、溶解度・吸収スペクトル・蛍光スペクトル・X線光電子スペクトル・XRD・TG-DTA・分子量解析がアルキル基の種類により異なることを明らかにできた。計画していた全ての検討を行うことができたため、当初の研究実施計画通り進展していると言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的に記した(3)を行う。 (3)酸化的共平面化反応を通したアルキル化ピッチのπ共役サイズ変化による溶液物性制御 (2)で得られるアルキル化ピッチライブラリに対して、酸化的共平面化反応を適用することで、ピッチサンプルに含まれる分子群のπ共役系の大きさを制御する。ここでは、酸化的共平面化反応に有効であるとされるルイス酸群、AlCl3, FeCl3, Sc(OTf)3などの反応条件を広く検討する。反応を行った後、溶解度が保持されているかどうかを確認し、反応前後での紫外可視吸収スペクトルや三次元蛍光スペクトルの変化を見極める。さらに(2)と同様に得られた材料の各種光学特性を比較し、酸化的共平面化反応前後での比較を行う。まとめとして(1)-(3)で得られる情報を整理して、石炭ピッチを用いた有機デバイス作製に必要な知見を得る。 また、(2),(3)で得られるサンプル群については、色素増感太陽電池における色素、有機薄膜太陽電池における有機半導体のどちらかの代替、有機EL素子の活性層やキャリアブロック層、としての利用の可能性を探るために、実際のデバイス作製を行って評価を行う。
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