光触媒中に存在すると考えられる電子トラップの準位の深さが電子のもつ熱エネルギーよりも小さければ,いったんトラップされても電子は伝導帯に戻ることができるが,逆に大きければ正孔と再結合するため,電子トラップ密度分布は光触媒反応の速度論的パラメータになると考えられる.このため,電子トラップ密度のエネルギー分解測定が不可欠であるが,粉末系で報告されている光化学法1)は,電子移動にかかわる電極電位のpH依存性を利用するためエネルギー分解能が低く,測定範囲もpH調節可能な範囲に限られていた.そこで,本研究では深い準位から順に価電子帯から電子トラップへ電子を蓄積させる逆二重励起光音響分光法(reversed double-beam photoacoustic spectroscopy=RDB-PAS)を使用し,電子トラップ密度のエネルギー分布を解析した. 市販酸化チタンをサンプルホルダに充填してPASセルを組み,メタノール飽和アルゴンをセル内に通気して密閉した.80 Hzに変調した625 nmの検出断続光と波長走査励起連続光を同軸照射し,625 nmにおける吸収変化をPAS測定した.得られたスペクトルは電子の蓄積量の総量に相当するため,長波長側から微分した. 代表的な酸化チタンの電子トラップ密度のエネルギー分布を測定するといずれの結晶型でもPAスペクトルの吸収端波長から見積もった伝導帯下端から0.4 eV程度まで電子トラップが分布していた.また,比表面積の上昇にともなって電子トラップ密度が増加すること,および,直線式のy切片が小さいことから,電子トラップは結晶バルクにも存在するもののほとんどが表面に存在すると考えられる.電子トラップ密度のエネルギー分布(ERDT)が表面における構造特性を反映すると考え,ERDTの金属酸化物粒子の指紋としての展開できることをあきらかにした.
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