研究実績の概要 |
本研究は、従来、研磨材料、触媒、絶縁性基板等の用途で利用されてきたアルミナの新たな用途としてκ型アルミナの非中心対称性に着目した強誘電体としての応用の可能性について実験的、計算化学的な検討を行った。その結果、従来予想もされていなかった、強誘電性アルミナ実現の可能性が視野に入るところまでデータを収集して、その全体像を明らかにすることに成功した。結論としては、実験的には、強誘電性アルミナは実現していないが、他元素を10%含む組成まで安定に取り出すことが出来、強誘電体分野の研究での新たなマイルストーン的研究に昇華させることができた。以下に、本研究で得た主な結果を記す。 (1)k-アルミナ構造を持つAl2O3,Fe2O3,Ga2O3,In2O3に関する第1原理計算(JFCC森分らとの共同研究)によりこれらの酸化物の分極反転機構を詳細に調べ、従来提案されている分極反転機構とは異なる機構で分極反転することを明らかにした。(2)分極反転の活性化エネルギーは(1)の結果に基づけば、0.08~0.15 eV程度で有り、このエネルギーは室温で分極反転しにくいPbTiO3あるいは Bi2SiO5と同等あるいは、それ以下であることが判明した。 (3)PLD法によりκアルミナ型酸化物を作製した。その結果 (Al,Fe)2O3, Fe2O3, (Ga,Fe)2O3, (Sc,Fe)2O3, (In,Fe)2O3の薄膜作製に成功した。(4)上記薄膜の分極測定を行ったところ、全ての膜で強誘電性を示すことを確認した。ただ、分極の計算値と実測値を比較すると実測値が計算値の数分の1程度であることから、この原因について実験的に明らかにする必要がある。 以上の結果を総括すると、κアルミナ型構造を持つ強誘電体は実現可能で有り、特に純アルミナ組成に近いアルミナまで強誘電体構造が維持できることが明らかになったのは、応用の観点からも極めて重要である。
|