研究実績の概要 |
半導体電子回路の集積密度は飽和を迎えつつあり,これを克服する一つのアプローチとして速く信号を伝えられる光回路を組み込むことが提案されているが,光の回折限界により光回路を微細化された電子回路に組み込むことは困難である.本研究では,高速性と微細性を兼ね備えた次世代情報伝達・処理回路の要素技術として,金属/誘電体のナノ積層構造に利得媒質(量子ドットあるいは有機色素)を導入し,表面プラズモンの誘導放出に相当するスペーザー発振(ナノレーザー)の実現を目的としている. 前年度は液相プロセスを用いて貴金属ナノ構造と有機色素分子を組み合わせた複合ナノ構造の合成を試みたが,所望の形状をもつナノ構造の作製が困難であった.このため,本年度は合成の方針を変更した。加えて,金や銀などの貴金属は半導体製造プロセスとの適合性が低く,微細加工を用いたプラズモン応用を妨げているため,半導体プロセスとの適合性が高い導電性窒化物TiNを研究対象とした.具体的には,微細加工に基づくトップダウンのアプローチによりサファイア基板上にTiNドットアレイを作製し,これに有機色素を含む発光層を積層させた.Siモールドを用いたナノインプリントおよびCl2/BCl3/Arガスによる反応性イオンエッチングを用いてサファイア基板上にTiNナノドットアレイ (ドット径250 nm,ドット高さ160 nm,ドット周期400 nm) を精度よく合成することに成功し,さらにこれと発光層を組み合わせた複合ナノ構造では表面プラズモンポラリトンと光回折の協同現象に基づく発光増強が観察された.このナノ構造形成技術を活用することにより,ナノ領域における光制御,ひいてはスぺーザー発振に基づくナノレーザーの実現が期待される.
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