研究課題/領域番号 |
26620203
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 秀幸 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特任講師 (10585821)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有機エレクトロニクス / 有機太陽電池 / 分子合金 / ポルフィリン / 固溶体 / フラーレン |
研究実績の概要 |
本研究は,異種分子間での分子軌道を電子的にカップリングさせることで,分子の合金化を実現し,それによる有機太陽電池の効率を向上させる事を目的とした.分子の合金化を高効率化の新しい手法として確立するためには,その形成過程を明らかにするための綿密な物性調査と合金薄膜の作製に向けた明確な指針を打ち立てる必要がある.そこで,平成26年度はポルフィリン分子をモデル化合物とし,二種のポルフィリン分子の合金化に必要な作製条件の追求と物性調査を行なった.混合比率,圧力や温度等の作製パラメーターを検討したところ,これらのパラメーターの最適化では合金化せず結晶性ポルフィリン分子は分離結晶化しやすい事がわかった.一方,第三の材料としてフラーレン分子をマトリクスとして加えたところ,フラーレンマトリクス内では,ポルフィリン分子の拡散が抑制され均質な合金薄膜を形成することを見出している. また,作製した合金薄膜の物性調査と並行してX線構造解析および分光分析を行い,分子の合金化によって変化する薄膜物性を多角的に検証した.母体となるポルフィリン結晶格子(BP)に新規ポルフィリン分子(CABP)が溶け込み,有機固溶体を形成していることを明らかにした.さらに,個々の分子とは有意に異なるエネルギー準位を示し,電子的にカップリングした状態をとることがわかった. 太陽電池おいては,短絡電流密度Jscと開放端電圧Vocは,エネルギー準位の観点からトレードオフの関係になりやすいが,本研究で得られたポルフィリン固溶体は,両パラメーターを向上させる事で太陽電池の特性向上に寄与できることがわかり,ポルフィリン固溶体が,単一のポルフィリンよりも優れた光電変換特性を示す事を明らかにしている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は,分子合金薄膜による高効率有機太陽電池を実現することが目的であり, 具体的には, 分子合金薄膜の作製方法の確立,物性調査, 結晶構造および内部組成の解析による分子的理解, 高効率太陽電池の作製と材料へのフィードバックを主目標としている. これらの目標を達成すべく鋭意研究を進め, Journal of American Chemical Society Materials誌1編,The Journal of Physical Chemistry Letters誌1編,Journal of Materials Chemistry A誌1編を論文発表し,当初の目標をほぼ達成している.以下,目標達成状況の詳細を述べる. (1)分子合金薄膜の作製方法の確立:フラーレンをマトリクスとして加えた三成分混合系で,合金化を容易に誘起できる事を見出している. (2)結晶構造および内部組成の解析による分子的理解:X線回折および紫外可視分光分析から,母体となるポルフィリン結晶格子(BP)に新規ポルフィリン分子(CABP)が溶け込み,有機固溶体を形成していることを明らかにしている.また,電子的にカップリングした状態をとることがわかった. (3)高効率太陽電池の作製:ポルフィリン固溶体が,単一のポルフィリンよりも優れた光電変換特性を示す事を明らかにした.短絡電流密度と開放端電圧はトレードオフの関係になりやすいが,本研究で得られたポルフィリン固溶体は両パラメーターを向上させる事で太陽電池の特性向上に寄与できることがわかった. (4)新しい材料系を用いた固溶体へのフィードバック:これまで得られた知見を基にして,新しい材料系の固溶体調査に取り組んだ.鉛,ヨウ素,メチルアンモニウムで構成されるペロブスカイト固溶体の太陽電池作製に取り組み,モルフォロジー制御による高効率化が可能である事を見出した.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は,ポルフィリン分子をモデル材料とすることにより,分子合金化手法の確立と有機薄膜太陽電池の性能向上に成功した.二種のポルフィリンに対して第三の材料であるフラーレン誘導体を混合すると,フラーレンがマトリクスとして機能する事でポルフィリン分子が固溶体を形成することがわかっており,今後は,さらなる太陽電池特性の向上を目指すため,合金化プロセスで重要な因子となる分子拡散について詳細に検討する. まず,物性の異なる種々のフラーレン分子をマトリクスとして用いて分子拡散の制御を系統的に調査する.これまでの研究で蓄積されたフラーレン材料の熱特性や溶解性などのライブラリを活用し,固溶体形成のメカニズム解明および高品質なポルフィリン固溶体薄膜の形成を目指す. また,太陽電池材料として有望な新材料群の探索を行なうため,フタロシアニンやペリレン誘導体,スクワリウム誘導体などの優れた光電変換特性を示す低分子系有機半導体の合金薄膜を作製し,単一ドナー系と二分子系ドナーの比較検討を行なう. さらに,別の材料系における固溶体形成と太陽電池特性についても検討する.優れた光電変換材料として知られる鉛ハロゲン系ペロブスカイトでは,モルフォロジー制御による高効率化が可能である事を見出したが,今後は,モルフォロジーの安定化について検討することで,長寿命かつ高効率な太陽電池の作製を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
合金化を制御するための材料と手法が研究初期段階で確立できたため,平成26年度に予定していた材料合成の優先順位を下げ,平成27年度に重点的に検討する予定であった薄膜分析や構造解析を優先した所,合成に係る使用額が予定よりも少なくなったため,当初の予定を下回る予算執行となった.
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画の優先順位を変更したが,研究に必要な金額には変更がない. 平成27年度は,材料ライブラリ構築のための新規フラーレン化合物の合成および新規ポルフィリン誘導体の合成にかかるガラス器具,有機溶媒および試薬を購入するための消耗品費を計上する.有機デバイス作製においては,太陽電池素子を作製するためのITO透明電極基板を購入するための消耗品費を計上する.平成26年度で得られた研究成果を国内外で発信するための学会参加費,国内および外国旅費を計上する.
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