研究課題/領域番号 |
26620207
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
鐘本 勝一 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (40336756)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機FET / 分光 / 電子スピン共鳴 |
研究実績の概要 |
本申請は、高速スイッチング機能を有する素子の実現に向けて、これまで申請者が培ってきた、素子動作と分光またはESRの融合技術を活用することで、有機FETが動作する際のキャリヤやトラップのダイナミクスを直接計測する技術の開発に挑むものである。本年度は、作成した有機FETに対して、分光やESR測定を実施し、その信号計測技術の確立や信号の解釈に重点を置いた。まず、ESRについては、シリコン基板上に素子を作製し、実際に動作が確認できた素子に対して測定できるように、試料設置技術を確立させた。特に、これまで報告されたような、ゲート電圧印加前後でのESR信号強度を比較するシステムだけではなく、ゲート電圧に直接同期させた信号計測システムも構築した。しかしながら、室温では信号が得られなかった。その原因として、ゲート電圧印加では、界面のチャネル層のみにキャリヤが誘起されるため、ESRにかかるキャリヤ量自体が小さいことが原因と思われる。そのため、低温での測定も試みた結果、5K付近において、キャリヤに起因すると思われる信号の計測に成功した。しかしながら、一旦キャリヤ信号が生成した後に、ゲート電圧印加を名無くしても信号が残存していたため、トラップキャリヤが発生し、信号として観測されたと考えている。 上記と並行し、分光計測を行った。ただし、最近、FET測定と分光を融合させた実験がいくらか報告され、その際、信号の解釈が曖昧なことが多いため、着実にキャリヤといえる信号の実測に力を入れた。その信号の解釈を確固とするため、キャリヤ発生が確実なダイオードにおいて計測を行った。その結果、信号には、注入キャリヤによる信号のみならず、電圧印加に伴われるStark信号が重なり、さらにその信号が電圧とともに強度変化することがわかった。これは、FET素子内の電場環境を計測するのに利用できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、作成したFET素子に対して、実際にESRや分光計測を実現させることを目的としていた。しかしながら、幾らか問題点が表れ、やや遅れた。その中身として、まずESRについては、電極付けした試料ホルダーの完成に時間を費やし、特に、低温測定までを可能にするホルダーの完成に時間がかかった。また、分光については、信号が出ることは確認できるが、そのダイナミクス計測に先立って、信号の解釈を確立させることが不可欠なため、それを確固とすることに力を入れた。ただし、この過程において、分光信号と内部電場の関係を明らかにでき、分光信号から内部電場環境を探れる可能性があることを明らかにできた。これは、FETに限らず、有機素子全般において非常に有用な知見である(論文投稿中)。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究を通して、概ね実験計測の体制は確立した。まず、ESRについては、通常のESRに限らず、パルスマイクロ波印加と融合させた計測まで実現させる体制を構築した。その一方で、問題点は、現状でESR信号強度が想定よりも小さいことである。低温での計測に重点を置くなどにより、強い信号強度環境下での測定を行い、ダイナミクス計測を実現させる。分光については、ダイオードでの計測を踏まえ、概ね体制は構築できた。そのため、本年度にはダイナミクス計測まで実現できるはずである。尚、当初は、ESRと分光の融合計測への着手も計画していたが、現状でそのシステムは、室温での計測のみ可能なため、室温でESR信号強度が強い系を見つけることが必須となり、現状ではまだ見つかっていない。その最適系の確立にも取り組む。
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