本申請では、高速スイッチング機能を有する素子の実現に向けて、これまで申請者が培ってきた、素子動作と分光またはESRの融合技術を活用し、有機FETが動作する際のキャリヤやトラップのダイナミクスを直接計測する技術の開発に挑むものである。最終年度にあたっては、これまでは作成有機FETの安定性に問題があったと考え、その作成方法を見直した。有機FETとしては、酸化シリコンを絶縁体に用いたものをプロトタイプとし、ポリマーを絶縁体に用いたFETや、ポリマー電解質を絶縁体とした電気二重層型FETの作成にも取り組んだ。それらについては良好な特性が確認され、分光によるキャリヤ計測に適用した。その結果、両試料ともに、キャリヤ信号の計測に成功した。今回分子性のFETで計測を実現したが、これまで分光計測では、ゲート電場によって誘起されるStark信号の計測のみが報告されていたのみであった。今回の結果においても、そのStark信号が同時に観測されていたが、それと同時にゲート有機キャリヤの信号が含まれていることがわかった。そのキャリヤ信号の観測位置特定を経て、キャリヤ信号が単独に観測されるエネルギー位置において、ゲート電圧印加と同期させた時間分解分光計測を実施した。その結果、ゲート電圧印加後キャリヤ信号が約1msの時定数で成長する様子を実測することに成功した。これは、本研究の目的の一つであった。本研究ではさらに、ESRにて同様な計測を行うことを目的としており、作成素子に対して、ゲート誘起のESR測定を行った。しかしながら、ESR信号が結局のところ観測できなかった。試料の膜厚調整や、印加電圧を高めたりしたものの成功には至らなかった。分光ではキャリヤ観測は確認しており、インピーダンス計測でもキャリヤ発生を示唆している状態であったため、原因はわからなかった。
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