研究課題/領域番号 |
26630009
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
澄川 貴志 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80403989)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 疲労 / 単結晶 / ナノ / 金属 / 固執すべり帯 / 突き出し/入り込み |
研究実績の概要 |
[1]試験装置設計および作製:積層型ピエゾアクチュエータ,レーザードップラー変位計およびファンクションジェネレータによって構成されるナノ試験片用共振疲労試験システムを開発した. [2]試験片の力学形状設計および作製:ナノ・マイクロ材料の共振周波数は数GHzを超えることから,例えば1000万回の繰り返し数は0.01秒以下で達成されてしまう.この場合,繰り返し数の制御が困難であり,極めて高いひずみ速度が機械特性に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった.そこで,ナノ試験片の先端に巨大な錘を搭載することで,数十kHまで共振周波数を低下させることに成功した.試験片の作製に用いる集束イオンビーム(Focused Ion Beam: FIB)によって導入される表面加工層の影響を調べた結果,試験片表面ですべり変形が強く阻害されることが明らかとなった.そこで,実際に用いる試験片については,低エネルギーアルゴンミリング装置を用いてFIBによる表面加工層を除去して試験に供した. [3]共振疲労試験の実施と疲労強度評価:開発した試験装置および先端に錘を具備した金(Au)単結晶試験片を用いて,繰り返し変形試験を実施した.その結果,繰り返し変形によって試験片の表面にナノレベルのすべり帯(突き出し/入り込み)が形成され,その形成応力はバルク材のそれの数倍であることを明らかにした.また,試験の際,すべり帯の形成に伴って,共振周波数と変位振幅の低減がおこる.この現象を利用することで,試験片への疲労損傷の発生を試験途中に検知することができることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H26の研究計画は,1.共振疲労試験システムの構築,2.共振疲労試験の実施,および,3.得られた実験結果に対する詳細な観察と考察の実施,である. 試験片の設計および作製は当初の予定通り進行した.ナノ試験片の形状設計により疲労試験に必要な変位振幅を共振で生じさせることができた.また,片持ち梁試験片の先端に錘をつけることで試験片の共振周波数を低下させ,断熱変形を生じない範囲での繰り返し変形試験の実現に成功した.単一すべり方位を有するナノサイズのAu単結晶試験片を用いて繰り返し負荷試験を実施し,寸法および形成応力がバルク材のそれとは大きく異なる固執すべり帯が形成されることを発見した.次年度実施予定の多結晶への疲労試験も実施し,疲労損傷を支配する力学因子を明らかにした. 当初の計画通り,研究は順調に進展しており,有益な結果を得ることに成功した.H27年度は,当初計画の実施に加えて,ナノ・マイクロ材料の疲労研究に関する今後の発展に寄与するために,共振疲労試験手法の欠点を補う引張圧縮試験手法の開発を試みる.
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今後の研究の推進方策 |
[1] 疲労強度データの取得、疲労メカニズムの解明:平成26年度に作製したものと同じ形状・結晶方位を有する試験片を複数本作製し,異なる変位振幅を用いて変位振幅一定の共振疲労試験を実施する.変位振幅の異なる複数の試験片の実験結果を用いてS-N曲線を作成し,マクロ材で得られているS-N関係との比較により,微小構造体の疲労強度およびその傾向について議論する.さらに,結晶方位が異なる試験片を作製し,その疲労強度評価を実施する.マクロ材の場合,活動する二次すべり系の相違によって疲労挙動が大きく変化することが示されており,微小構造体においても同様の傾向が存在するかどうかを検討する.得られた結果をもとに,結晶学的・力学的考察を実施して疲労メカニズムを明らかにする。 [2] 引張・圧縮試験手法の開発:H26の研究において,ナノ金属材料に特有の疲労現象が存在することを見いだした.一方,一般的な疲労試験に比べると高いひずみ速度や応力勾配の影響等,共振疲労試験に関する短所を特定することができた.そこでより一層の研究の深化を考え,ナノ金属材料に対する引張・圧縮試験手法の開発を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度については,当初,試験片に大きな振幅を付与できる積層型ピエゾアクチュエータの購入計画していた.しかし,試験片形状の適切な設計を行うことにより,現有のアクチュエータで共振疲労試験を実施することに成功した.この実験により,当初の予想を上回るナノ材料特有の疲労損傷挙動を明らかにすることに成功した.積層型ピエゾアクチュエータの購入により,よりひずみ範囲の大きい疲労試験も可能であったが,実験遂行中に共振疲労試験手法が有する短所(曲げ変形の影響等)を明確に特定することができた.より精度が高く対象範囲の広い研究成果を創出するためには,共振疲労試験手法の短所を解消した引張圧縮試験装置の開発が不可避であると考えた.そこで,H26年度は引張圧縮試験手法のアイデアの創出と装置設計に費やし,研究費を次年度に繰り越してその達成に必要な物品を購入することとした.
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次年度使用額の使用計画 |
H26年度に設計した引張圧縮負荷装置の実現に必要な真空用ロードセル(微小負荷用)およびピエゾコントローラー一式を購入する.
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