研究課題/領域番号 |
26630012
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
平方 寛之 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40362454)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナノマイクロ材料力学 / ナノ構造 / 薄膜 |
研究実績の概要 |
本研究では,薄膜内部のナノスケールの幾何学構造を制御することにより,所望の機械的特性を有する薄膜機械要素を創製する方法を開発する.物理蒸着において基板の傾斜角と面内回転角を動的に制御する動的斜め蒸着法は,ナノスケールで内部構造を制御した薄膜を作製できる.さらに,薄膜を基板から自立させると,製膜時に生じる内部応力により自発的に曲げ変形する.本研究では,薄膜の内部ナノ構造に異方性を付与することにより,曲げ変形の方向を制御する.これにより,平面状の薄膜素材から,制御された曲げ変形を介して,所望の3次元外部構造を有する薄膜機械要素を創製する.本技術は,任意のらせん角を有する超高伸縮コイルばね等のこれまでにない微小機械要素を実現して,新たなデバイス開発に大きく貢献する. 本年度は,動的斜め蒸着法を用いてナノ構造要素が連結したポーラスナノ構造薄膜を作製した.基板傾斜角を変えることにより,多様なナノ構造薄膜を作製するとともに,FESEMによる構造観察を行い,作製可能なナノ構造のバリエーションについて基礎検討を行った.これまでに多くの構造を作製してきた実績のあるTiに加えて,Cuによる作製を試みた.その結果,斜め蒸着によりCu薄膜においても内部に異方性ナノ構造を有する薄膜が作製できることを明らかにした. 基板上に作製したナノ構造薄膜の自立化手法として,樹脂犠牲層上に作製したナノ構造薄膜に対するウェットエッチング,およびSi基板上に作製した薄膜に対する反応性ガスエッチングを用いた方法を検討した.前者の方法では,有機溶剤により樹脂犠牲層を溶解したのち,より表面張力の小さい液体(フロリナート)に置換した後,薄膜を大気中に取り出す方法を考案し,本手法により基板から自立したナノ構造薄膜が実現できることを明らかにした.一方,反応性ガスによるドライエッチングでは薄膜の損傷が避けられず自立化が不可能であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,ナノ構造要素が連結したポーラスナノ構造薄膜を作製して,自立化手法を開発した.これにより,意図したとおりナノ構造に異方性を付与した自立薄膜を実現するとともに,曲げ変形方向の制御が可能となった.さらに,次年度に実施予定の変形特性評価の基礎検討を実施して,自立させたナノ構造薄膜に対する変形・強度実験が実施可能であることを確認した. 以上より,本研究は計画通りおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
1.ナノ構造薄膜の変形特性と異方性評価: 形成される薄膜の外部構造は,薄膜に作用する内部応力勾配とそれに対する薄膜の変形抵抗力(弾性特性)によって定まる.したがって,薄膜の外部構造形成機構を解明し,変形方向や変形量を制御するためには,ナノ構造薄膜の変形特性(弾性特性)を異方性も含めて定量的に評価することが不可欠である.本研究では,ナノ構造の異方性を考慮して,同一の供試材から引張軸を変えた複数の試験片を作製し,変形特性の異方性を評価する. 得られた実験・観察結果を基に,ナノ構造薄膜の構造,弾性率,および形成される外部構造の関係について力学的に検討する.すなわち,ナノ構造の定量的な特徴付け(密度,形状異方性)を行い,それを考慮した力学解析により,薄膜としての弾性率,および変形方向の予測モデルを構築する. さらに,薄膜内部にナノスケールの構造を有することで,均質な薄膜に比べて表面の割合が増大するため,ナノ構造薄膜の機械的特性が均質薄膜とは異なると推察している.そこで単純な弾性特性に加えて,表面の影響を強く受けると予測されるクリープ特性の解明に着手する. 2.薄膜機械要素の機械的特性評価: ナノ構造薄膜を用いて3次元薄膜構造要素を作製する.3次元薄膜構造要素に対する機械的特性評価法を開発して,らせん角の異なるコイルばね要素等の典型的な構造要素を対象として機械的特性を評価する.これらの結果をもとに,薄膜機械要素のアクチュエータ等への応用に関する基礎検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
繰越し分は端数の少額である.予算の99%以上は使用しており,概ね当初の計画通り執行した.
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次年度使用額の使用計画 |
必要な書籍等の一部として有効に使用する.
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