最終年度である本年度は,内部にナノ構造を有する薄膜の機械的特性評価を本格的に実施した.作製したCuナノ構造薄膜に対して,ナノ構造の異方性を考慮して,同一の供試材から引張軸を変えた複数の自立薄膜試験片を作製し,機械的特性の異方性を評価した.さらに,蒸着角度を70°から77.5°に変えることにより,ナノ構造薄膜の空隙率を変化させ,内部構造と機械的特性の関係を検討した.その結果,破断強度,破断伸び,および弾性率のいずれにも内部ナノ構造の異方性に起因して異方性が発現すること,およびこれらの特性が空隙率に依存することを明らかにした.また,ナノ構造薄膜の空隙を考慮しない断面で算出した破断応力は均質薄膜に対して低下するものの,空隙を考慮した実断面で算出した破断応力は均質薄膜と同程度となった.これは,内部ナノ構造の寸法が10 nmのオーダーであるため,寸法微小化による機械的特性の強化が生じ,これが構造付与に伴う応力集中による弱化を相殺したためと推察される.さらに,蒸着角度75°で作製したナノ構造薄膜に対するクリープ実験を実施して,均質薄膜と同等のクリープ特性を示すことを明らかにした.以上のように本研究では,斜め蒸着法により3次元外部構造を有する薄膜機械要素の実現に不可欠な変形異方性を付与できること,薄膜要素の機械的特性をナノ構造により制御できること,および内部ナノ構造を付与した薄膜は均質薄膜と同様の強度を有することを定量的に解明した.
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