研究課題/領域番号 |
26630013
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小茂鳥 潤 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (30225586)
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研究分担者 |
村井 一恵 慶應義塾大学, 理工学部, 助教 (70645944)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 微粒子ピーニング / 高周波誘導加熱 / 表面改質 / 金属間化合物 |
研究実績の概要 |
雰囲気制御下で加熱しながら微粒子を投射するAIH-FPP処理装置を利用して,構造材料として広く使用されている炭素鋼表面にNi-Al金属間化合物から成る改質層を創製し,その優れた特性を利用して炭素鋼の高温強度,耐酸化性,耐摩耗性を向上させることを目的とした.本研究では,その基礎研究として所望の投射粒子元素を基材に拡散させた後,金属間化合物化させるためのプロセスについて検討を加えた.具体的には,高温に加熱した炭素鋼基材に対してNiおよびAl粒子を投射した.このとき,投射粒子の形態を工夫することで,基材表面におけるNiとAlの反応を促進させ金属間化合物化を図った. 初年度はまず,従来と比較して酸素濃度の低い環境で処理が可能となる真空置換AIH-FPP処理システムを構築した.具体的には酸素濃度が10ppm以下のとなる窒素雰囲気で900℃に加熱した鋼に対してCr粒子を用いると,従来の装置では微量に残存する酸素と反応し,Cr系の酸化物が形成されたが,新しい装置を用いた場合には,XRDで分析した範囲では酸化物の形成はほぼ完全に抑制可能となることがあきらかとなった. 次のステップとして,Ni粒子とAl粒子とを撹拌により混合した粒子を用いたAIH-FPPを行った.その結果,両粒子の比重さが大きいため,安定した投射が困難なことが明らかとなった. そこで2種類の粒子をあらかじめ粉体混合装置により複合化させた粒子を用いてAIH-FPPを行った.混合の度合いや割合によりその効果は異なるものの被処理面にはNi-Al系の金属間化合物層が形成されることが明らかとなった. そのメカニズムに関しては,現在,詳細を調べている段階ではあるが,現在のところ,投射粒子形態の差異や融点降下によるフラックス効果や燃焼合成反応などが改質層形成に影響を与えていると考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高性能の金属間化合物を比較的安価な鉄鋼材料の表面に創成させるという試みで本研究は着手した.これまで,融点の高い粒子でも低融点の粒子を同時に投射することができれば,表面には金属間化合物層が形成される可能性が明確になった.また,新しいシステム(真空置換AIH-FPP処理システム)の運転もスムーズに進んでおり,その意味で,初年度としてはほぼ目標を達成できたと判断できる. しかしながら,当初目標でもある,メカニズムの解明という観点からはまだ不十分な点が数多く残されている.とくに,今後はしっかりとした仮説をたてて,それを検証するための実験を実施することが必要である
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今後の研究の推進方策 |
今後は初年度にやり残した事柄を補完しつつ,当初計画通り,下記の項目を実施する. 1.被処理面の分析:金属間化合物の同定は,試験片断面上において,XRDを用いて行う.また,試験片表面および縦断面をSEMおよび光学顕微鏡により詳細に観察し,組織形態の変化を分析する.さらに,縦断面表面近傍のマイクロビッカース硬さ測定を行い,表面改質効果を検証する. 2.摺動試験の実施:高硬さの金属間化合物を形成させる目的の一つとして摺動特性の改善がある.ここでは,往復摺動型のトライボステーションを用いて,表面の摩擦係数や摩耗状況を調査し,摺動特性の変化について検討を加える.また,試験後の摺動面をSEMにより観察し,金属間化合物化処理の効果発現メカニズムを検討する.なお,AIH-FPP処理を行うと,表面粗さが上昇するものと考えられるが,ここでは必要に応じて処理後に研磨などの二次加工を施し,その影響についても検討を加える. 3.腐食試験の実施:耐食性機械部品への実用化を考慮した場合,耐食性の評価も重要である.この点は電気化学試験により実施する.具体的には,試験片を作用極として,対極と参照電極を用いた3電極法による分極試験を行い,不動態保持電流密度と孔食電位を評価する.また,腐食後の試験片をSEMにより観察し,弱部を同定する. 4. メカニズムの検討:仮説検証型のアプローチにより,金属間化合物創成メカニズムを提案する.
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