本研究の提案手法では,酢酸ナトリウム水溶液の過冷却現象を利用して柔軟・難把持工作物を把持する.酢酸ナトリウム水溶液は,過冷却状態では液体であるため,水平な工作機械テーブル上に容器を置いて,その中に水溶液と工作物を入れる.工作物の周りを水溶液で満たしておくことで,複雑形状であったとしても,水溶液が凝固すれば隅々まで均等に把持できる.水溶液が凝固を始めるきっかけの刺激として,加工前に工具を水溶液に浸すことを想定しており,これにより加工の自動化にも対応できる.そこで,水溶液の濃度を変化させた場合の凝固までの時間や凝固時に発生する熱,様々な工作物材質(金属,プラスチック,ゴム等)に対する把持力を詳細に調査した. また,柔軟・難把持工作物の加工誤差について,推定される切削力に基づいて予測した.本研究では切削加工の中でも一般的なエンドミル工具によるフライス加工を対象とするが,このときの切削力は,回転する工具が切り取る瞬間的な切削断面積に比例する切削係数法を用いて推定でき,これを用いて工作物の変形(たわみ)に影響を与える平均切削力が計算した. 一方,提案している把持手法では,工作物だけでなく凝固した酢酸ナトリウム水溶液も共に削り取る.従って,これらの形状が変化していくことで工作物のみかけ上の剛性が変化し,加工誤差にも影響を与えることが予想される.そこで,初年度に開発した加工誤差を予測する手法を基にして,所望の加工精度を確保できるように,把持部分を含めて加工順序を計算する工程設計機能を考案した.さらに,加工途中の工作物形状を算出するためにトポロジー(形態)最適化を用いて,航空機部品の実際の加工で“支え”となる箇所を残すように,熟練技能者でなくては思いつかないような加工途中形状を計算し,複雑形状に対しても高精度な切削加工を実現する実用性の高いCAMシステムを開発した.
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