研究課題/領域番号 |
26630023
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
伊藤 義郎 長岡技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60176378)
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研究分担者 |
田邉 里枝 長岡技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70432101)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 赤外フェムト秒レーザー / 非線形加工 / 三次元構造 / マイクロ加工 / シリコン / 空間光位相変調器 |
研究実績の概要 |
赤外フェムト秒レーザーによるシリコン(Si)内部への3次元構造の創成を目的に、焦点位置を精密に制御可能な顕微鏡下でのレーザー照射システムを構築した。倒立型赤外顕微鏡に焦点位置の制御のための空間光位相変調器(LCOS-SLM)を組み込んだ、レーザー照射装置を設計、構築し、その性能の評価を行った。LCOS-SLMを有効に機能させるためには、素子の有効範囲全体にレーザー光があたり、かつ、集光対物レンズの瞳径にもビームが蹴られないように光学系を設計する必要があった。また、Si基板内の任意の深さで焦点を結ぶようなホログラムパターンを生成できる計算プログラムを作成し、それによってLCOS-SLMを駆動した。Si基板の裏面に焦点が合う条件を与えて、計算機ホログラムのパターンを生成し、走査加工を行ったところ、基板裏面に10マイクロメータ以下の幅の微小な粒状構造からなる帯状の加工部が形成された。この幅は、従来の補正環付対物レンズによる加工結果より若干狭くなっており、LCOS-SLMによってSiの収差補正が実現されたことを示している。 また、裏面にレーザーを集光した際に、レーザーの条件によっては、規則的な周期構造が形成される現象を発見した。従来は、加工速度が高くなるという予想からレーザーの繰返しを500kHzと高く設定していたが、100kHz以下の繰り返しで走査加工すると、Si基板裏面に300nm程度の間隔の周期構造が形成された。これは、試料表面を短パルスレーザーで照射した場合に形成されるLIPSS(Laser Induced Periodic Surface Structure)に類似した表面構造であるが、非吸収波長のレーザーを用いて試料の裏面に形成されること、構造の方向がレーザー光の偏光面と並行であること、などの点でこれまでのLIPSSとは異なっており、新しい現象である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
補正環付対物レンズとは同等以上の収差補正が実現されたものの、LCOS-SLMを制御する計算機ホログラムは、Si基板裏面において、設定よりも大きなレーザースポット径を与えており、十分な結果を出せていない。顕微鏡にレーザーを導入するための途中の光学系の影響を受けているためと思われるが、レーザービームの波面測定の装置を持たないため、その問題部分の発見と解消に手間取っている。ホログラムパターンを試行錯誤的に調整している段階である。波面測定装置の借用、光学系の各部分での強度パターンの計測を含め対応を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
達成度のところで述べた問題を、必要に応じて、LCOS-SLMの使用に関して豊富な経験を持つ研究者に相談するなどして早期に解決する。 LCOS-SLM制御用のホログラムを改良し、試料ステージと連動して焦点位置をSi基板内部で3次元的に制御できるようにする。また、湿式エッチングによる3次元加工を実現するための試料ホルダーを設計、作成し、加工実験を行う。このホルダーは、水が赤外レーザー光を吸収するので、Si基板と水の界面に対して、Si基板内部側からレーザーを照射できる構造にする必要がある。 また、研究の過程で発見したSi基板裏面におけるLIPSS形成現象は、これまで報告されている表面LIPSSとは性質が異なる新奇の現象であり、新しい表面修飾技術につながる可能性がある。その形成条件や形成機構に関しても、検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
光学部品の納入価格と見込み額に差が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
学会参加のための旅費に充当する計画である。
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