研究課題/領域番号 |
26630027
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高谷 裕浩 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70243178)
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研究分担者 |
道畑 正岐 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70588855)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超短パルスレーザー加工 / レーザーアブレーション / ラマン散乱計測 / 電子増強ラマン散乱効果 / ナノ微細加工 / ナノ局所界面 / 超微細レーザー加工計測 / ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
本研究は,液中の超短パルスレーザーアブレーションによって加工材料がプラズマ化する直前の数ピコ秒(ps)から数百psの間にナノ局所界面で起こる現象を解明し,インプロセス加工計測制御への展開をめざすものである.本研究課題では,超短パルスレーザー加工過程における時間・空間選択的な加工計測手法として,散乱光の高速な時間応答性と励起光照射領域に限定された空間応答性を有するラマン散乱に注目し,加工過程における温度や物性変化を時間・空間選択的に捉える,新たな加工計測原理の確立を目的としている. 本年度は,フェムト秒パルスフォトニック・ナノジェット(以降,PNJ: Photonic Nanojet)励起ビームを利用した電子注入の基本特性と,ナノ局所界面における電子増強ラマン散乱効果(以降,EERS: Electron Enhanced Raman Scattering)を利用した超高感度化によるラマンスペクトル計測の基礎実験を遂行するため,ナノ局所界面計測基本光学系を構築し,その基本特性を調べた.励起用(加工用)光源として,中心波長800 nm,パルス幅 < 100 fsのフェムト秒チタンサファイアレーザーを利用し,PNJ励起ビームを生成する方法として,捕捉用レーザーの光放射圧によって超純水中で保持された直径数マイクロメートルのマイクロ球を利用した.また,励起用ナノ粒子として,水中でほぼ単分散する水酸化フラーレン分子を用い,さらに被加工材料としてSiウェハを用いて,PNJ励起ビームの制御方法に関する基礎実験条件について検討した.マイクロ球を利用しない場合の集光レーザー光によるSiウェハ表面加工特性との比較によって,レーザーエネルギー密度の閾値とその制御性について検討し,基礎実験条件として,PNJ励起ビームとSiウェハ表面のナノメートルオーダーの位置決め精度が重要であることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フェムト秒パルスレーザー光を励起光として,界面における数分子程度の水分子層によるEERSを確実に誘起するためには,PNJ励起ビームの伝搬方向における強度分布特性を利用し,強度が減衰するビーム先端部がSiウェハ表面のアブレーション閾値を超えない位置でマイクロ球を位置決め調整する必要がある.本年度は,基本光学系の設計・試作ととともにマイクロ球の位置決め条件を明確にするため,PNJ励起ビームによるSiウェハ表面加工特性を詳細に調べた.理論スポット径1.0μmの集光レーザーによるSiウェハ加工実験によって求めた,アブレーション閾値100 mJ/cm2を基準値に定め,PNJ励起ビームの伝搬方向の距離とレーザーエネルギー密度の関係を,原子間力顕微鏡(AFM)を用いたSiウェハ表面の加工痕評価によって調べた.その結果,マイクロ球(直径8.0μm,屈折率1.44のシリカ微粒子)とSiウェハ表面の距離が約520nmのときのアブレーション閾値を明らかにすることができた.このようなEERSの安定した誘起のために必須の条件であるマイクロ球の位置決め制御に関する定量的な知見は,当初計画では予想されなかった大きな展開である.しかし一方で,後方散乱光によるEERSスペクトル検出の有効性や水酸化フラーレンのプラズマ化に最適な光学条件が未だ明らかになっていないため,平成26年度において設定した,EERSスペクトルのナノ局所界面計測基本光学系の設計・試作の構築とその基本特性に関する研究目標に対して,おおむね順調な進展と自己評価した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究で提案する計測原理の有効性を,信頼性が高く詳細な実験結果によって明らかにすることを目的とした,平成26年度から平成27年度前半にかけての当初研究計画を完全に達成するため,3400 [cm-1]近傍の高感度ラマンスペクトル検出と高い繰り返し特性の検証を行うことによって,界面の水分子層によるEERS効果を確認し,さらに平成26年度の大きな課題となっていたマイクロ球の安定した保持とPNJ励起ビームや基板試料表面への熱的擾乱を避けるための高精度な位置決め制御技術の確立に基づいた,EERSスペクトル計測実験を遂行し,実験装置の基本性能と信頼性を検証することを目標とした基礎実験を継続的に遂行する.また,ラマン散乱解析の適用範囲を,物質構造だけでなく温度特性にも着実に拡げるため,光電子増倍管を用いたプラズマ発光の検出精度を高め,それをモニタリング光として用いたEERS効果の安定条件を明確にする基礎実験を遂行する. 今後の推進方策として,特に研究計画の大きな変更は必要としないため,EERSスペクトル検出の有効性を明らかにする,ほぼ当初の実験方針に沿った研究を遂行し,新たな成果をまとめた研究発表等を行う予定である.それと同時に,本研究の大きな目的である,PNJを利用したナノ微細形状加工実験との連携による研究展開も検討する.具体的には,水中におけるレーザーアブレーション加工過程の理解が進めば,加工現象の新たな知見に基づいた,新規加工手法への展開も視野に入れ,インプロセス加工・計測実験システム化による加工制御の精密化を狙う.なお,今後の課題として,実験の再現性をより精密かつ確実に示すことが計測精度の信頼性を向上する上で重要であるため,特に基礎データの取得と実験装置の安定性を実現するための装置改良を同時に進める.
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