研究課題/領域番号 |
26630029
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
鈴木 恵友 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (50585156)
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研究分担者 |
小田部 荘司 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (30231236)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超伝導加工法 / ピンニング効果 / 3次元加工 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は超伝導物質を超伝導コイルの中で冷却し着磁させることで生じる強磁力を援用した研磨微粒子とし,ナノレベルでの3次元微細構造を実現することである.これらの技術を確立するため,本年度はピンニング効果を利用した超伝導加工法を新規に考案し,これらの加工法に関する理論的考察や簡易実験装置による切削性能評価を行なった.その結果,ピン二ング効果により加工工具を空中でトラップし,回転および振動させることにより,銅基板により切削痕が確認することができた.具体的な内容としては下記のとおりである. 超伝導加工法に関して,本研究では大きく2つの方法を考案した.1つ目の方法としては加工工具としての超伝導粒子の下部に電磁石などの巨大磁石を設置したあと,フィールドクールで超伝導微粒子を磁化させ,電磁石による磁界で超伝導微粒子をトラップし運動させることを特徴としている.この手法では加工部分を超伝導臨界温度以下に冷却を維持させる必要があるものの電磁石による磁界を変化させることにより,トラップされた超伝導微粒子の運動を制御することが可能である.一方,2つ目の方法は加工工具としては磁石粒子を用い,その下部に超伝導バルクを設置することを特徴としている.磁石粒子の運動は,超伝導バルク自体を回転,振動させることにより加工を行う.この方法では電磁石のように磁界を変化させることは困難であるが,常温で加工できることを特長としている.本研究では後者の常温での加工可能であることに着眼し,磁場勾配による力に関する理論的な解析を行うとともに,こられの計算結果を参考に実際に簡易加工装置を製作し,原理検証をおこなった. 加工用微粒子しては切削性能を向上させるため,磁性粒子の外周部にダイヤモンド粒子を固定したシェル構造を採用している.現在,銅板により切削加工の原理検証を行い,特許の出願手続きを進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの達成度としては,一部研究方針に変更はあったもののおおむね予定通り進捗している.その理由としては,理論的考察に基づいて簡易加工装置を製作し,超伝導加工法の新規加工方法を考案し,原理検証できたことである.これらの研究については日本機械学会で学会発表を行うとともに特許出願も進めている.以下にこれまでの内容に基づき,新規超伝導加工法に至った経緯について報告する. 本研究では当初,超伝導微粒子を超伝導コイルの中で冷却し着磁し,ヘルムホルツコイルにより発生する磁界により,超伝導微粒子自体を運動させ加工を進行させる方法を予定していた.しかしながら,YBCOなどの超伝導材料の硬度がソーダガラスよりも低いことや,ボールミルにより超伝導バルク材料から粉砕して作製した超伝導微粒子では磁界により十分な力が発生しない問題が発生した.この原因としては未解明であるが水分による超伝導微粒子の劣化と推測される.これらの問題を解決するため加工方法から見直す過程で,ピンニング効果による磁界援用加工方法へ発展させた.具体的な研究内容としては以下のとおりである. 硬度の評価に関してはひっかき試験によりモース硬度を評価した.その結果,YBCOではアルミや銅についてはひっかき痕が発生したが,ソーダガラスでは確認できなかった.したがってYBCOの加工微粒子では加工可能な材料が限定されてしまうため,高硬度なダイヤモンド微粒子の複合化を行った.次に超伝導バルクを粉砕するため,ボールミルによる粉砕実験を行った.ここでは粉砕前のバルクでは超伝導特有の反磁性の性質を示したが,粉砕後消失した.ここでは粉砕後の粉末を電気炉により熱処理を行い,結晶性の修復を試みたが十分な効果が得られなかった.したがって着想を転換し,超伝導バルク材料によるピンニング効果により磁性微粒子をトラップさせる方式へ拡張させた.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の目標としては,ピンニング効果により加工微粒子を空中に浮上させ回転および振動運動を加えることにより,ナノレベルでの3次元微細構造を実現させることである.本研究における超伝導加工法に関しては,超伝導粒子を電磁石で浮遊させる方式と逆に超伝導バルクで磁性粒子を浮上させる方式の2通りを考案してきた.これらの方式にはそれぞれ利点があるが,今後の進め方として本年度製作した簡易加工装置2つの手法に対して評価できるように拡張する.具体的にはピンニングの効果を高めるための装置構造の改良や冷却機構の追加,加工微粒子の保持力測定装置,専用の3次元加工ステージ,そして加工微粒子の観察用カメラの設置を行う.ピンニング効果を高めるための追加機構に関しては小田部教授と共同でシミュレーションにより最適な磁石構造の配置を設計する.この他液体窒素温度以下に冷却可能にするため液体窒素冷却室に真空ポンプを取り付けポンピングにより液体窒素温度以下に冷却可能にする.ピンニングの保持力測定装置については専用のロードセルを設置し,垂直方向と水平方向成分の2方向の力を測定可能する.ここでは研究室所有の微粒子測定用の高速度カメラを併用し,微粒子の変位方向に対する力を指標とする.専用の3次元加工ステージに関しては研究室所有のXYステージに対してZ方向の1軸ステージを追加する.加工ステージの設置方法に関しては加工法により異なるため取り替え可能な構造にする.ここでは当面MEMSプロセスに適用可能にするため最大で数cmの範囲で加工を出来るように設計する. 一方加工微粒子に関しては今後シェル構造を想定しているが,コア粒子として超伝導微粒子と磁性微粒子の2通りを開発する.コア微粒子においてはバルクから必要な形状に加工する.そしてコア粒子表面にダイヤモンド微粒子を固定する.加工微粒子の形状に関しては切り屑の排出方法も考慮する.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては,当初の超伝導微粒子を超伝導コイルの中で冷却し着磁しヘルムホルツコイルにより発生する磁界により超伝導微粒子自体を運動させて加工を進行させる方式から,ピンニング効果を利用して加工微粒子の空中でトラップし回転および振動させ,加工対象物の位置を制御することで3次元加工を行う方式へ変更したためである.本研究で新規に提案した方式の利点としては,常温での加工が可能になった点とサンプル形状の自由度が増した点,加工位置の制御が容易になった点である.これまで実際に簡易加工装置を製作し,本研究で提案した超伝導加工法の原理検証をおこなってきた.ここでは銅基板上に切削痕も確認されておりピンニング効果により加工することが期待できる.したがってこれら利点や実現可能性を考慮し,当初の提案より優位性が期待できるため新規手法により評価可能な装置を新規に製作するため,次年度使用額が発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
使用計画に関しては,主にこれまで製作した簡易加工装置を改良し,超伝導加工法による3次元加工を可能な装置の製作費用がメインである.ここでは超伝導粒子を電磁石で浮遊させる方式と逆に超伝導バルクで磁性粒子を浮上させる方式の2つの手法に対して評価できるような装置を想定している.本研究で使用する予算は,おもに超伝導バルクや磁石の固定した専用チャンバーと冷却機構の製作費用に充てる. 専用チャンバーにはロードセルを設置し,ピンニング効果による保持力の測定機や研究室所有の微粒子測定用高速度カメラを取り付ける.ここでは加工中の様子を高速度カメラで観察することが可能であるため,切り屑の形状や排出速度に関しても評価可能にする.具体的な加工対象物としては医療用MEMSを想定し,第1ステップとしてポリ乳酸樹脂の3次元加工を試みる.そして,アルミ材,銅,磁化率の低いSUS材へ拡張していく.
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