研究課題/領域番号 |
26630039
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
福澤 健二 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60324448)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | トライボロジー / 摩擦力顕微鏡 / プローブ顕微鏡 / マイクロマシン / ナノトライボロジー |
研究実績の概要 |
微小機械において重要な微小すきまの潤滑現象の解明には,すきまを精密に規定し,かつ機械要素の微小化に対応した局所的な特性の定量化が必須である.本研究では,これを実現する計測法の確立をねらいとして,プローブに鉛直方向の駆動機構を付与し,高精度なすきま制御を可能とする摩擦力顕微鏡の構築を目的としている. 本年度は,プローブ構造と作製法を検討した.プローブの構造としては,摩擦力などの水平力に対して板ばね部がたわむ構造とした.さらに,別の板ばねにより,水平力測定用の板ばね部を支持する構造とした.鉛直方向の力に対しては,水平力測定用の板ばねは変形せず,支持板ばねのみが変形する構造とした.このように摩擦力などの水平方向の力と荷重などの鉛直方向の力に対して,プローブの変形が干渉しない設計とした.また,低いばね定数と高い共振周波数を両立するには,質量はマイクログラムのオーダとする必要がある.すなわち,構造のサイズをマイクロメートルスケールとすることが必須である.そこで,プローブ部の作製にはマイクロマシン技術,特に加工精度に優れたドライエッチング法である反応性イオンエッチング法を用いて,プローブ部を一括して形成した.鉛直方向の駆動には,静電引力を用いるため,微小な電極部をマイクロマシン技術を用いて作製し,プローブとの間に電圧を印加することで,静電駆動機構を構成した.基板としては,上下のシリコン層の間に酸化シリコン層が埋め込まれているSilicon On Insulator(SOI)基板を用いた.SOI基板を用いて,ドライエッチング法による試作を試み,プローブ構造の形成が原理的に可能であることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初目標としていた,プローブ構造の設計と作製法について,おおむね,ねらいを達成することができた.プローブ部については,二つの板ばね構造を組み合わせ,かつ微小電極部との間に静電力駆動機構を構成する構造とした.水平・鉛直力方向の力による変形が干渉しないこと,および,ばね定数,共振周波数に対する要求を満たすには,アスペクト比の高いマイクロ構造が必須となる.反応性イオンエッチング法を用いてSilicon On Insulator基板を加工することで,設計指針を満たす構造が形成可能であることを実験的に確かめることができ,プローブ作製法については,原理的な可能性を確認できた.
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今後の研究の推進方策 |
試作したプローブの機械特性や静電駆動力など基本特性を計測し,開発した方法をもとにプローブの構造と作製法を改良する.その後,微小電極部を用いて静電力駆動機構を構成する.そして,これを用いたすきま制御系を構築する.すきま制御系としては,鉛直方向のプローブ変位と設定値との差を0とするように,静電力駆動機構の印加電圧を調整する制御系とする.制御方式としては比例・積分・微分(PID)制御法とし,現有のプログラマブル制御装置を用いる.鉛直方向の制御系を構築後,現有の摩擦力顕微鏡装置(原子間力顕微鏡装置)にプローブを搭載し,すきま制御型の摩擦力顕微鏡計測を試みる.試料としては,表面が比較的平坦なシリコン基板や磁気ディスク,あるいは紫外線照射などで基板に固定された厚さ数nmの潤滑膜(境界膜)を含む潤滑薄膜などとする.その際,探針と試料間のすきまをnmオーダで制御し,摩擦力特性が取得可能かどうかを検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
今期は,プローブの設計・試作を行いプローブ加工法の原理確認を行った.加工法の原理確認が比較的順調に進んだため,当初予定していたより費用が少なく済み,かつ次年度以降の研究実施により多くの費用が必要と見込まれたため,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
試作したプローブの機械特性や静電駆動力など基本特性を計測し,開発した方法をもとにプローブの構造と作製法を改良する.そのためのSilicon On Insulatorウェハの購入およびフォトリソグラフィーに必要なフォトマスクを作製する.これ以外にも,プローブ作製のための薬品などの消耗品類を購入する.その後,微小電極部を用いて静電力駆動機構を構成する.そして,これを用いたすきま制御系を構築し,現有の摩擦力顕微鏡装置(原子間力顕微鏡装置)にプローブを搭載し,すきま制御型の摩擦力顕微鏡計測を試みる.このための試料などの消耗品類や計測のための機構部品類を購入する.
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