前年度までに進めたプローブの試作結果に基づいて,プローブ構造と作製法を改良した.その後,鉛直駆動機構を構成しすきま制御系の構築を試みた.鉛直駆動機構としては,プローブ先端と後端面に,これに対向する電極を有する電極部を設け,すきま制御用の静電力駆動機構を構成した.電極部としては,導電性シリコンをプローブ電極とすきまを空けて対向させる構造とした.静電気力は引力しか働かないため,二対の静電力駆動機構の静電力を制御することにより,試料から引力と斥力の両方を補償できる構造とした.前年度の成果を基に,基板としては,上下のシリコン層の間に酸化シリコン層が埋め込まれているSOI(Silicon On Insulator)基板を用いた.酸化シリコン層は,エッチングされずエッチ・ストップ層となるため,上面と下面からエッチングすることで,上下面で異なる構造の形成が可能であった.SOI基板を用いたプローブ作製において,酸化シリコン層エッチング時に電極構造がはがれる問題が生ずることを見出し,これを克服するプローブ構造を検討した.つぎに作製したプローブと試料間のすきま制御系を構築した.鉛直方向のプローブ変位と設定値との差を0とするように,二対の静電力駆動機構の印加電圧を調整する制御系とした.制御方式としてはPID制御法とし,プログラマブル制御装置を用いた.鉛直方向の制御系は摩擦力顕微鏡装置(原子間力顕微鏡装置)にプローブを搭載した状態で機能するものとした.構築したプローブは摩擦力が検出でき,すきま制御が摩擦力検出の支障とならないことを確認した.そして,構築した隙間制御型プローブについて,鉛直方向の外力を加えた場合,10ミリ秒以下で鉛直力の補償すなわちすきま制御が可能であることを示した.以上のように,すきま制御型の摩擦力顕微鏡計測が,本プローブにより原理的に可能であることを確認できた.
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