研究課題/領域番号 |
26630043
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
渡部 正夫 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30274484)
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研究分担者 |
小林 一道 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80453140)
矢口 久雄 群馬工業高等専門学校, 機械工学科, 講師 (20568521)
藤井 宏之 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00632580)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 流体 / 熱工学 / 統計力学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,平均場運動論理論から得られるEnskog-Vlasov方程式を用いて,強い非平衡状態にある高速で移動する気液界面近傍での非定常熱・物質輸送現象を解明することである.相変化現象は局所平衡が成立しないため,気液界面近傍は本質的には非平衡状態であるが,気液界面が高速で移動している場合には,さらに強い非平衡状態となる.局所平衡が仮定される流体力学は適用できず,気液界面近傍の輸送現象の解析は大きな困難を伴う.本研究では,運動論理論を用いて強い非平衡状態にある気液界面近傍での熱・物質輸送現象を定量的に評価する.さらに,得られた結果を整理し関数群の形で記述することにより,局所平衡が仮定される流体力学の枠組み内で使用可能な,気液界面近傍の熱・物質輸送を記述する境界条件を構築する 運動論理論の数値解析手法の一つであるEV-DSMC法を用いて,強い非平衡状態の非定常気液界面近傍の非定常熱・物質輸送現象を記述するEnskog-Vlasov方程式の数値解析手法を構築した.特に高速で移動する強い非平衡状態となっている相変化を伴う非平衡・非定常気液界面熱・物質輸送現象を観察することに成功した. 流体力学解析に,分子気体論に基づく気液界面境界条件を適用する手法について検討した.相変化をより正確に記述可能なSone-Onishiモデルの流体解析手法への適用方法(流体解析における計算格子の物理量と分子気体論に基づく界面近傍の物理量との関係)を示した. 相変化を含む数理モデルを解く計算手法を構築した.気泡内外の温度場を求める積分方程式と積分微分方程式を解き,16個の方程式を連立させることで,相変化を伴う気泡の挙動を数値計算することにより,物理的諸量を求めた.計算結果を解析解と比較することで,その手法の妥当性を示した.また,気泡の収縮と膨張に伴い気液界面で生じる質量流束の時間変化を調べた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二つの温度の異なる液体スラブに挟まれた蒸気領域を考察することにより,一方の液体スラブから蒸発し,他方の液体スラブに凝縮する蒸気の流れを実現することに成功した.これにより,高速で気液界面に流入する蒸気分子の流れを観察することが可能となったのは本研究の大きな成果である. 蒸気と非凝縮性気体より構成される気泡の崩壊を数値計算する手法を構築した.特に,Ghost Fluid法を改良することにより,気液界面における非平衡相変化ならびに非凝縮性気体の拡散現象を,分子気体論に基づく界面境界条件を適用可能な形式(任意の方法で決定される界面を通過する質量・熱流束を扱い得る形式)にて構築することに成功したことは,本研究の大きな特色である.また,分子気体論に基づきより正確に記述される気液界面境界条件を流体解析に導入する方法論の構築として,Sone-Onishiモデルの流体解析手法への適用方法を検討し,一次元の検証問題により手法の妥当性を検討したことは本研究の大きな成果である. 気泡の運動を記述するための方程式系は,質量流束,圧力,気泡半径,気泡壁速度,温度,気泡壁における温度勾配,熱伝導率,飽和蒸気圧を含めた16個の変数を持ち,12個の代数方程式と2個の常微分方程式,さらに気泡内外の温度場を求める積分方程式と積分微分方程式で構成されている.相変化と界面移動を伴う熱・物質輸送現象を正確に検討するために,分子気体論に基づきより正確に記述される気液界面境界条件を導入していることが本研究の大きな特徴である.Sone-Onishiモデルを用いて,相変化に由来する気泡壁における質量流束を求め,Kelvin方程式により気泡内の飽和蒸気圧を求めた.これらのモデル方程式を解くことに成功し,相変化を伴う気泡の挙動は,収縮過程で凝縮がおこり,膨張過程で蒸発が起こることを示したことは,本研究の大きな成果である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は強非平衡となる移動界面近傍における物理特性を解明し,得られた知見をもとに強非平衡・非定常問題の運動論境界条件の確立を行う.さらに,局所平衡が仮定される流体力学の枠組み内で使用可能な,気液界面近傍の熱・物質輸送を記述する境界条件を構築する 今年度に得られた数値解析手法,および適切な境界条件を用いて,相変化を伴う高速で移動する気液界面,および気液界面に高速で流入する蒸気流束がある物理過程を検討する.気液界面近傍での熱・物質輸送現象を解析するために,一次元計算を行う.系の圧力を一定に制御し,気体の初期温度を変化させ,特に,液体温度上昇が顕著となる条件を明確にする.揺動散逸定理を用いて気液界面近傍における熱・物質輸送係数を定量的に評価すると共に,非定常熱・物質輸送経路を詳細に検討することにより,Jinboらの提唱した「凝縮潜熱の開放によって気体温度が局所的に大きく上昇する」可能性について考察する. 幅広い条件パラメータ空間を網羅的に調査することにより,非平衡領域での熱・物質輸送現象を表す状態関数を適切な関数群として記述することにより,運動論境界条件を構築する.さらに,非平衡領域と平衡領域とを接合することにより,平衡領域での気液境界領域における熱・物質輸送現象を規定する流体力学境界条件を構築する. 得られた流体力学境界条件は,気液界面近傍での強い非平衡・非定常な熱・物質輸送現象の情報を内包した平衡領域における境界条件である.GFMを用いた流体力学数値解析にこの境界条件を実装し,流体力学の視点から気体・液体領域を統一的に解く.また,得られた運動論境界条件と気体論方程式を用いて気体領域を数値的に解き,得られた結果を比較することにより,流体力学の枠組みで高速で移動する気液界面近傍での熱・物質輸送現象の解析手法を提示する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度当初計画では,数値解析用計算機サーバを購入する予定であったが,計算プログラムの見直し,および新しい理論モデルを導入する事により,計算負荷を軽減することが可能となった.そのため,研究の遂行のために必要な計算機を再選定した結果,計算機の性能向上もあり,より安価な計算機で所定の性能を満たすことがわかったため,数値解析用計算機サーバに投入する予算を圧縮することが可能となったため,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度研究購入した計算機が所定の性能を満たすことを確認したので,計算機台数をさらに購入・増強することにより,パラメータを種々に変更して計算を行うことが可能となる.そのため,次年度使用額の一部を使用する.本年度研究購入した計算機が所定の性能を満たすことを確認したので,計算機台数をさらに購入・増強することにより,パラメータを種々に変更して計算を行うことが可能となる.そのため,次年度使用額の一部を使用する. 本年度研究の進展により,特に気泡力学・キャビテーションの分野において目覚ましい成果をあげることができたため,当初の研究計画では予定していなかった,9th International Symposium on Cavitation (Lausanne, Switzerlandにおいて開催:12月6日~10日)に参加し,本研究に関係する最新の知見を得る.そのため,次年度使用額の一部を使用する.
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