研究課題/領域番号 |
26630047
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
亀田 正治 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70262243)
|
研究分担者 |
山中 晃徳 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50542198)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 火山 / 流体工学 / 可視化 / レオロジー / シミュレーション工学 |
研究実績の概要 |
火山噴火における「気泡流から噴霧流への遷移」をつかさどる,高粘度発泡粘弾性体(マグマ)の破砕過程を解明するための室内実験と数値シミュレーションを進めた. 室内実験では,酸素気泡入り水あめを発泡マグマ模擬材料として,急減圧にともなう試料の挙動を調べた.従来から検討してきた試料のレオロジー(固体/流体遷移タイムスケール(緩和時間)と急減圧時定数の関係)の影響に加えて,本年度は,試料内部の空隙構造が破砕の有無に与える影響に着目した.高輝度光科学研究センター (JASRI) の大型放射光施設 (SPring-8) に装置を持ち込み,X線イメージングにより試料内部の3次元構造を把握しつつ,急減圧にともなう試料の変化を観察した.その結果,同じ平均ボイド率,同じレオロジー的性質の実験でも,気泡が局在している試料にのみ破砕が生じることが分かった.(亀田ら 2014; 志田ら 2014; 青木ら 2015). 数値シミュレーションでは,マルチフィジックスソフトウェアCOMSOLをプラットフォームに用いて,減圧をともなう空孔を有するマクスウェル粘弾性体内の応力分布時間変化の解析を進めた.特に,近接して2つの球形気泡が存在する場合に着目し,気泡周りの応力場および試料の固体的/流体的性質をつかさどる脆性度を算出した.その結果,(1) 1つの気泡が作る差応力分布の影響領域内に他気泡が存在する場合に気泡表面に応力が集中する; (2) 応力集中箇所では,破壊に必要な差応力に達した瞬間の脆性度(臨界脆性度)が高くなる.すなわち,試料が局所的に脆くなる; (3) 気泡同士の距離が近いほど,臨界脆性度は高くなる,ということが分かった (黒川ら 2015).
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の最終目標である,気泡の偏在による破砕促進メカニズムの解明に対する進捗度は50%程度と考えている. 発泡体内空孔の三次元構造および破砕過程を実験的に明らかにするという第1の目標は,JASRIの連携研究者(上杉),協力者(星野)の助力を得て,システムの構築を完了し,約10サンプルの試料について実験データが得られた段階である.X線CT撮影の3次元再構成像の質を落とす装置の欠点を改良すれば,再構成像の定量的な解析が進むものと期待している. フェーズフィールド法と有限要素法を組み合わせて空孔を有するマクスウェル粘弾性体におけるき裂進展挙動を解析し,気泡の数密度分布に起因する局時的,局所的な応力集中が粘弾性体の固体的破砕のカギを握っていることを明らかにするという第2の目標は,有限要素法による応力場の解析まで進んだ段階である.この段階で,気泡の偏在による応力集中,臨界脆性度の高まり,というき裂進展に必要な状況の再現に成功している.連携研究者(市原)の助言を受けて,現象のメカニズムによる解釈も進んでいる.き裂進展のシミュレートまでは達していないが,研究分担者(山中)によってフェーズフィールド法によるき裂進展シミュレーションに必要な定式化のめどはついており,最終目標に向けた準備は十分に進んでいると考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
急減圧破砕模擬実験装置をSPring-8のビームラインに持ち込み,X線透過像による試料初期状態のCT撮影,急減圧にともなう試料の動的挙動をとらえる高速度X線透過撮影を実施する.CT撮影の障害となる装置の支柱をなくす改良を施し,CT再構成像から気泡分布状態を定量的に解析する.得られた再構成像と破砕過程のラジオグラフィ像を比較して,破断面の特定する.本実験は,研究代表者,連携研究者(市原,上杉)に加えて,JASRI研究者(星野),農工大大学院生2名(青木ヤマト,吉田広志)の協力を得て10月ご炉に実施する. 不均質な空孔分布によるき裂進展シミュレーションを進めるため,フェーズフィールド(PF)法/有限要素法(FEM)連成計算アルゴリズムを構築する.PF変数で色分けした二相媒体について,PF変数分布に基づくFEMメッシュを生成し,マクスウェル粘弾性体構成式を用いて応力・ひずみ場求める.FEM計算結果から弾性ひずみエネルギを算出し,PF変数場の時間発展を求める.計算アルゴリズムの構築は,研究分担者(山中)を中心に,農工大大学院生2名(黒川紀章,丸山祥吾)の協力を得て進める. アルゴリズムの有効性を調べるため,前年度に進めた球形粘弾性体の中心部に複数の気泡を配置する計算を出発点に,臨界脆性度の高い領域からのき裂進展を確認する.続いて,実験で得られた初期気泡分布の一部を取り出した系に対するき裂進展シミュレーションを進め,実験で得られた破断面が計算でも再現できるかどうかを確認する. 以上の結果を総合して,連携研究者(市原)と協力して,試料のレオロジー,気泡の不均質分布を考慮に入れた破砕過程数理モデルを提案する. 地球惑星科学連合大会(5月,幕張)でのポスター発表,Geophys. Res. Lett., Phys. Rev. Lett.などの速報誌での論文発表を通じて研究成果を公表する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者(山中)が,フェーズフィールド法と有限要素法の連成計算を行うたに調達する予定ののコンピュータを購入しなかった.コンピュータは日進月歩であるため,定式化を中心に進めた今年度に無理に使用するよりは,本格的な計算を実施する次年度に購入したほうがより効果的に研究が進められると判断した.
|
次年度使用額の使用計画 |
フェーズフィールド法と有限要素法の連成計算を行うためのコンピュータ購入費に充てる.
|