本研究では,マイクロ流路内における細胞の電気穿孔法および動電現象を利導した単一細胞のRNAおよびDNAの同時抽出・解析技術を開発した.開発したマイクロ流体システムは,細胞膜の溶解を200 ms,抽出および分離を約1 分程度で完了し,高品質のRNAおよびDNA分子を出力できることを示した. H26年度はマイクロ流体システムの基本構造を開発し,出力されたcytoplasmic RNA (cyt RNA)およびgenomic DNAのそれぞれについてRT-qPCRおよびqPCRを用いて品質を評価した.本解析から,RNAサンプルにおけるDNAの混入量はqPCRの検出限界以下であり,抽出したRNAの純度が非常に高いことがわかった.また,RT-qPCR解析から,抽出したRNA分子のほとんどがPCRで増幅できる品質を保っており,我々の開発した方法が様々な解析に応用できる可能性を示した. H27-H28年度は構築したマイクロ流体システムをcyt RNAおよびnuclear RNA (nuc RNA)の同時計測技術へ展開し,出力サンプルを用いた次世代シーケンシングに取り組んだ.ここでは,オリゴ(dT)プライマーを用いてmRNAのpoly(A) 配列から逆転写のプライミングを行うとともに,テンプレートスイッチング法を用いた方法で全長cDNAを作成した.これらのサンプルに対して次世代シークエンシング解析を実施し,一細胞のcyt RNAとnuc RNAの網羅解析が可能であることを示した.また,開発した方法はcyt RNAとnuc RNAの分画を高精度かつ高い再現性で実施可能であり,両者の対比からそれぞれの分画で変動している発現遺伝子や,イントロンの保持型に顕著な差異があることが明らかになった.
|