研究課題/領域番号 |
26630054
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
後藤 晋 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (40321616)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 乱流 / 混相流 / 固体粒子 / クラスタリング / 輸送現象 / 直接数値シミュレーション / 秩序構造 / 渦 |
研究実績の概要 |
高レイノルズ数の乱流中における固体粒子群のクラスタ形成の物理機構を系統的に理解することを主目的として、数値シミュレーションを進めてきた。とくに、従来の多くの研究では無視されてきた『粒子の大きさや形状』を考慮した研究を進めている。 本研究の特徴のひとつは、乱流中に存在する秩序立った渦構造の存在に着目する点である。つまり、重い粒子はこれらの渦から遠心力の効果により掃き出され渦の外周部にクラスタを形成するのに対して、軽い粒子は渦に捕獲され渦内部にクラスタを形成する。つまり、いずれの場合も、乱流中の渦が粒子群のクラスタの形成において重要な役割を演じる。 ところで、我々の数値シミュレーションによれば、高レイノルズ数の乱流中の大小さまざまな渦は『明確な秩序を有する階層構造』を成すことが明らかになってきた。したがって、粒子群のクラスタ形成を理解するためには、この秩序渦の階層構造の生成維持機構や各渦の寿命などを理解しなければならない。 そこで、これらを明らかにするための数値シミュレーションを進めた。具体的には、周期境界条件下で、異なる種類の外力に駆動される乱流の数値シミュレーションを実行し、渦度場のフーリエ成分のバンドパスフィルタを用いることにより同定された渦の階層の生成過程を調べた。その結果、各階層の秩序渦は管状であり、それらの渦管は生成されると同時に逆方向に旋回する別の渦管と対を成す傾向があることを明らかにした。また、この乱流中の最大渦は積分時間の10倍以上の比較的長い寿命を有する一方で、より小さなスケールの渦の寿命は(渦旋回時間に応じて)より短くなる。従来までの渦の同定法では、大小さまざまな渦を混同するために、これらの性質が捉えられなかった。明らかになった秩序渦の性質が粒子群のクラスタ形成に与える影響を明らかにすることが、今後の目標となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度まではとくに乱流の統計や動力学の理解に集中したために、当初の研究計画からはやや遅れている。しかし、上で述べたように、これらの知見は本研究の目的を達成するためには必須である。また、有限の大きさや任意形状の粒子を扱うために用いた数値シミュレーション手法(埋め込み境界法)の精度検証を慎重に実行していることも、研究の進捗が表面上遅れている理由である。つまり、埋め込み境界法は、混相流を扱う数値手法のひとつの主流であるが、さまざまな実装方法が提案されており、しかも、我々が採用した実装方法が(スペクトル法を用いた)流体相の数値シミュレーション手法と融和的であるかは必ずしも自明ではない。そこで、乱流中の粒子群の挙動に関する数値シミュレーションをさらに進める前に、この数値手法の精度検証を十分に行うことが必要であるために、これに時間を費やした。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、乱流の統計や動力学の理解は確実に進展している。本研究課題が当初の計画から遅れをとっているのは、本研究で用いている(粒子群と周囲流体との相互作用を扱う)数値シミュレーション手法の精度検証に関する部分のみである。この点に関しては、現在も継続的に検証を行なっており、これまでのところ結果は良好である。したがって、平成28年度の早い時期にはそれを終える。その後は、既に実行済みの周期境界条件下の乱流中における粒子群のクラスタ形成に関する数値シミュレーション結果をまとめる段階に移行する。 また、それと同時に、当初の計画通り、より複雑な境界条件下の乱流中における粒子群の挙動を明らかにするための数値シミュレーションを遂行する。具体的には、これまで我々が行なってきた平行平板間に維持される乱流や回転容器内の乱流中における粒子群の挙動を数値的にシミュレートする。前者に関しては、従来までの無限小の大きさの粒子群の挙動に関する知見との相違点を明らかにすることを主眼にする。たとえば、壁面近傍における粒子群のクラスタ形成が、粒子の大きさの影響を受けてどのように変化するかを明らかにすることは重要な課題となる。一方、後者に関しては、可能な限りで室内実験と連動して研究を進め、本研究で得られた知見が実験的にも検証される可能性を示す。 なお、平成28年度も、当初の計画通りにスーパーコンピュータのマシンタイムを確保しており、これらの数値シミュレーションは十分に実行可能である。また、当該分野における最先端の研究を行っている研究者との国際共同研究をさらに進めることで、本研究課題を加速し、年度内に完結させる。
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