乱流中の固体粒子群のクラスタ形成の物理機構の解明を目的として数値シミュレーション研究を遂行した。とくに、粒子径が乱流の最小渦より大きい場合に粒子径がクラスタ形成に与える影響を明らかにすることを目標とした。このような数値シミュレーションは、従来まで広く行われてきた粒子径を無視したものと比べると極端に難しい。本研究では、埋め込み境界法とよばれる数値手法を用いて、この系に対する数値シミュレーションを遂行した。 ところで、発達した乱流中には秩序立った渦が階層構造をなす(Goto et al. 2017)。我々の数値シミュレーションによれば、粒子とこの秩序渦構造の大小関係に応じて、粒子クラスタには質的な違いが現れることが明らかになった。しかし、得られたクラスタの粒子径依存性は定性的には理にかなうものの、その定量的な正当性については疑問が残った。つまり、上述の数値シミュレーションで用いた数値手法の精度を詳細に検討したところ、たとえ粒子レイノルズ数が比較的小さい場合であっても、一粒子あたりの解像度をかなり多くとる必要があることが分かった。このことにより、乱流中の固体粒子群の数値シミュレーションを精度よく実行することの難しさが浮き彫りとなった。 また、本年度は、埋め込み境界法の数値手法開発の第一人者であるカールスルーエ工科大学のウールマン教授の研究室に滞在し、乱流中の固体粒子群の挙動に関する共同研究を実施した。具体的には、埋め込み境界法の精度向上に関する情報交換を行うとともに、ウールマン教授のグループが実施した数値シミュレーション結果の物理的解釈についての議論を重ねた。前者により我々の数値手法の問題点を洗い出すことができた。一方、後者に関しては、我々が無限小粒子に対して提案した理論(Goto & Vassilicos 2008)が有限粒子径の固体粒子群の挙動も説明することが明らかになった。
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