研究課題/領域番号 |
26630059
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
田中 学 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20292667)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱工学 / 生物・生体工学 / 流体工学 |
研究実績の概要 |
本研究は,極めて複雑かつ微細な3次元形状を特徴とする鼻腔内の流れと熱物質輸送を,医用画像の直交格子を直接利用して簡易に解析する手法を確立し,鼻腔の嗅覚機能,吸入空気の加温・加湿機能,及び異物除去機能を評価する新規の鼻腔形成手術アセスメントを提案・実現することを目的とする. 本年度は,解析結果の検証を目的として,樹脂製の透明鼻腔モデル流路を用いた流動可視化実験を実施した.鼻腔モデルは解析と同形状とし,医用画像を基に3Dプリンタにより作製した.吸気定常流れを可視化した結果,安静時の呼吸に相当するレイノルズ数でも鼻腔前方上部で流れの不安定性に基づく速度変動が発生する等,解析結果と同様の傾向を確認することが出来た.また,呼吸往復流れを可視化して加速・減速が流れの不安定性に及ぼす影響を調査した結果,呼吸往復流れでは吸気定常流れよりも速度変動が増大する傾向が確認された. 鼻腔内に吸入された異物浮遊粒子の挙動について,蛍光染料を吸着させた花粉とほぼ同じ大きさ,形状,密度を持つ胞子の一種をトレーサーに用い,鼻腔壁に付着したトレーサーの蛍光強度を測定して沈着量を評価した.その結果,粒子沈着部位は不均一かつ局所的であり,沈着量は左右鼻腔ともに内側(鼻中隔側)より外側(鼻甲介側)の壁面で多く,特に鼻腔前方下部の下鼻道や鼻腔後方上部の中鼻甲介で多いことが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鼻腔モデル流路を用いた流動可視化実験を実施して,数値シミュレーションによる鼻腔内遷移流れの再現性について妥当性を検証することが出来た.また,花粉を模擬した粒子沈着の蛍光計測を実施して,粒子沈着の空間分布に関する定量的データを取得することが出来た.
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今後の研究の推進方策 |
実際に鼻腔形成手術を受けた鼻腔疾患患者の術前・術後,その後の経過における医療診断画像に基づくボクセルシミュレーション結果の蓄積を図り,鼻腔疾患患者の鼻腔の構造と機能の関係に関する臨床データベースを構築する.シミュレーション結果と,医師の診断所見,患者の症状・感覚との関係について検討し,本手法の診断・治療支援システムとしての有効性を明らかにする. 実際の鼻腔疾患患者の術前・術後の鼻腔形状は,炎症等により健常者の鼻腔よりも微細で複雑な構造が生じることが予想され,局所的に非常に高い空間分解能が必要となると考えらえる.今後は,このような部位について局所的に高次精度の適合細分化格子法を組み込む計画である.また,医療診断画像は,放射線利用に関する医療倫理の問題により,術前にはCTで,術後にはMRIで撮影されるため,術前・術後の解像度等の画像の質の違いが問題になる.今後は,低解像度画像に対しては形状の近似精度を上げて流れの予測精度を改善するため,ボクセル内の形状を曲線で近似する仮想境界法を組み込む計画である.
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