研究実績の概要 |
前年度に引き続き,時間領域サーモリフレクタンス(Time Domain Thermoreflectance, TDTR)を用いた熱伝導分光に関する研究を進めた.当初は,前年度までに行ったランダムに分布したナノアイランドに代えて,金属を試料表面に規則的にパターニングする方法によって,加熱光に対して透明でない材料にも適応できる計測法を開発する予定であったが,同様の手法に基づく研究が他のグループによって発表されたため,さらに先を行くために,より実用的な材料の熱伝導率のモード依存性に関する知見を得るための研究を行った.対象として,環境親和型の熱電材料として注目されているシリコンナノ多結晶体を取り扱い,TDTR法の変調周波数を通じて熱浸透深さを変えることで得られる熱伝導率のサイズ依存性や,熱伝導率の温度依存性を評価し,フォノンの熱伝導率への寄与に関する知見を得た.まず,マルチスケールフォノン輸送解析法によって,ナノ多結晶体のフォノン輸送を計算した結果,界面でのフォノン散乱はモードに強く依存し,平均粒径が数十~数百nmの場合には低周波数フォノンの寄与が選択的に低減されることがわかった.さらに,粒径分布の広がりの影響は小さく,ナノ多結晶体の熱伝導計測をする際に粒径分布を狭い試料を作製する必要がないことがわかった.一方で,TDTR法は試料表面の幾何学および化学的状態に敏感であるため,研磨プロセスの熱伝導率への影響を詳細に調べた.室温での計測の結果,熱浸透深さを1~5umと変えた程度では,熱伝導率の違いは見られなかったため,熱浸透深さをより小さくできる広周波数領域サーモリフレクタンス法の適用を検討した.一方で,70~300Kの範囲で熱伝導率の温度依存性を計測した結果,単結晶,高ドープ単結晶,ナノ多結晶体では,フォノンモードの寄与の違いに起因して温度依存性が大きくことなる結果が得られた.
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