研究課題
本研究ではエネルギー機器や化学プラントなどで広く用いられる熱交換機器への応用を視野に,伝熱性能を光で簡便に制御する新規な方策について検討した.まず,光の波長に依存して分子構造が変化する化学物質の一つとして,2-メトキシ桂皮酸(OMCA)という塩を選び,その水溶液が光照射によってどのように変化するか,プロトン核磁気共鳴法(1H NMR法)および紫外可視吸収スペクトル法(UV-Vis法)によって調べた.その結果,350nm程度の紫外線(UV光)を含む光で照射すると溶質であるOMCAがトランス体からシス体へ不可逆的に変化することが分かった.そこで,少量のOMCAを粘弾性流体の一種であるCN水溶液(臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB,陽イオン系界面活性剤の一種)とサリチル酸ナトリウム(NaSal,CTABの対イオン)から成る水溶液)に溶かし,その熱流動特性に及ぼす光照射の影響を実験的に調べた.また,この水溶液(CNO水溶液)中に形成される界面活性剤分子の絡み合い(ミセル構造)の変化を極低温透過電子顕微鏡(cryo-TEM)で観察した.その結果,CNO水溶液中のOMCAに占めるトランス体の含有率が小さくなる(トランス体濃度が低下し,逆にシス体濃度が上昇する)程,粘弾特性が水のようなニュートン流体的傾向を示すようになり,緩和時間も短くなること,含有率がゼロ(OMCAのシス体のみ)の場合とトランス体を含む場合,それぞれのcryo-TEM画像を比較することで紐状ミセルの数密度や長さに差異の見られることが分かった.伝熱実験においてもトランス体の含有率が高い程,ニュートン流体の場合に比して平均熱伝達率,圧力損失ともに増加したため,その主要因をトランス体の粘弾特性にあると結論づけた.また,CNO水溶液の粘弾特性の変化を紐状ミセルのネットワーク構造の違いと関連づけることもできた.
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