本研究は,MRIの造影剤や温熱治療に利用が期待される強磁性ナノ粒子を溶媒に分散させた磁性流体について,粒度分布,体積分率,温度によるNMR信号への影響を調査すること,およびヒートパイプのような熱工学機器へ応用を考え,MRIによる3D観測を利用して植物の水分輸送の仕組みについて調べることにある。 磁性流体としては,マグネタイトナノ粒子の表面に界面活性剤としてオレイン酸をコーティングし,これを溶媒である水に安定して分散させるためドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を加えたものを対象とした。まず,磁性流体中のマグネタイトナノ粒子の粒度分布をレーザー散乱法により測定した結果,20nmから100nmまでの間に釣鐘型の分布を示した。次に,溶媒中の体積分率の絶対値を調べるためにTEMによる観測を実施した。まず,観測チップ上で乾燥させて観測したところ,約10nmのマグネタイトナノ粒子の他に,同程度の径を持った異なる物質の粒子が観測された。これらは,オレイン酸またはSDSの球状ミセルが析出したのではないかと予想される。マグネタイトナノ粒子に関してはその組成分析を行ない,FeとOにスペクトルのピークが見られたことで確認できた。さらに体積分率をより明確にするために液中TEM観測を実施しているが,これまでに観測の前例がなく,観測を継続しているところである。 この磁性流体について,NMR信号測定を行ないMRI画像の作成に使われるT1およびT2緩和時間を測定した。温度および媒質の割合を変えて測定し,マグネタイトナノ粒子の濃度が大きくなるほどT1およびT2の緩和時間が短かくなることを確認した。 植物内の水分輸送機構については,主に水柱連続体モデルおよび水ポテンシャル理論が主流である。これらの理論の妥当性を確認するためにMRI測定よりも容易と思われる植物内の水の圧力分布測定を考案し,実現可能性について検討している。
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