「神経ダーウィニズム仮説」によると,神経活動パターンの多様化と自然選択により,脳は適応的な情報処理を実現している.しかし,多様性の利用に関して,具体的な方法は全く明らかにされていない.本研究では,創発的バイオコンピューティングを実現するための要素技術として,培養神経回路の混沌とした自発的な活動パターンから秩序ある出力パターンを取り出すことを目指した.具体的には,後述のFORCE学習アルゴリズムを利用して,実際の生体材料である神経回路とリカレント・フィルターを構成することを試みた.まず,試料の培養神経回路の神経活動パターンを調べた.高次元の時空間的なパターンの次元縮約を試みた結果,培養神経回路は,再現性と多様性を持ち合わせることを示した.次に,FORCE学習を実装するための実験系を構築した.神経活動の計測には多点電極アレイ(MEA),刺激にはRuBi-Glutamateの光励起を用いた.光源には,473 nmの青色レーザを用い,任意の光パターンを照射できるようにデジタルミラーデバイス(DMD)を組み込んだ.RuBi-Glutamate濃度が100 µM以上の場合に,多点電極アレイ上の神経回路は光刺激に対して再現性良く応答を示し,光の照射時間を増やすと刺激応答の強度が大きくなった.また,単一電極規模で刺激することが可能であった.FORCE学習の実装実験では,神経細胞の発火頻度に適したカイザー窓を設計し,発火率を逐次計算した.その結果,FORCE学習により,培養神経回路から定常状態を抽出できた.
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