研究課題/領域番号 |
26630111
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
稲田 亮史 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30345954)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 酸化物固体電解質 / 常温衝撃固化 / エアロゾルデポジション / 薄膜 / リチウムイオン伝導率 / ナシコン構造 / ペロブスカイト構造 / ガーネット構造 |
研究実績の概要 |
エアロゾルデポジション(AD)法は,ArやN2等のキャリアガスと混合してエアロゾル化した結晶微粒子を音速程度に加速し,基材(金属,セラミックス,ガラス等)に高速噴射した際に生じる衝撃固化現象を利用して多結晶膜を常温形成する手法であり,原理上,原料と同一組成・結晶構造の多結晶膜を常温で成膜できる。本研究では,AD法を用いて高いリチウムイオン伝導性を有する酸化物固体電解質薄膜を作製することを目的としている。平成26年度の研究実績は以下の通りである。 (1)ナシコン構造Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3(LAGP)薄膜の作製と評価 ボールミル処理により固相反応法で合成したLAGP粉末の粒度調整を行い,これを直接原料としてAD成膜を行った。平均粒径0.5~1μm程度のLAGP粉末を使用することで,常温衝撃固化により膜形成できることを明らかにした。得られた膜は,原料粉末度同様な結晶構造を有しており,成膜時の衝撃により変形・破砕したLAGP粒子が膜を形成していることを確認した。LAGP膜のイオン伝導率は最大で0.5x10-5 S/cmであり,既報の焼結体の伝導率より一桁以上低い値であった。膜の相対密度は75~80%程度であり,これが低イオン伝導率の一因であると推測される。 (2)ペロブスカイト構造(Li,Sr)(Ta,Zr)O3(LSTZ)およびガーネット構造Li7La3Zr2O12(LLZ)の高イオン伝導率化 固相反応法によりLSTZおよびLLZ焼結体を合成し,組成制御ならびに他元素置換によるイオン伝導率向上を検討した結果,前者で0.3 mS/cm,後者で0.7 mS/cmの高い室温イオン伝導率を得ることができた。更に,ボールミル処理により合成したLSTZおよびLLZ粉末の粒度調整を行い,常温衝撃固化による膜形成に適した原料粉末粒径・成膜条件の割り出しに注力した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナシコン構造LAGPについては,常温衝撃固化により膜形成できるLAGP粉末の粒径ならびに成膜条件を明らかにするとともに,微細組織・結晶構造ならびに電気伝導特性を評価した。得られた結果に基づいて,LAGP膜のイオン伝導率向上に向けた問題点,次年度に向けた改善点を明確にすることができた。 ペロブスカイト構造LSTZおよびガーネット構造LLZについては,膜作製に先立ち構成元素の組成適正化や他元素置換によって,上述のLAGPよりもはるかに高いイオン伝導率が得られることを実験的に明らかにした。更に,合成したLSTZおよびLLZ粉末を使用して,常温衝撃固化により膜形成できる粒径・成膜条件の割り出しを行うことができた。形成膜の微細組織や結晶構造,電気伝導特性の詳細な評価は次年度早々に実施予定である。 以上より,研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
ナシコン構造LAGP膜については,膜の緻密性が低い(相対密度75~80%程度)ことがイオン伝導率低下の主要因となっているため,相対密度90%以上を有するLAGP膜を形成するために,原料粉末の粒径・粒子形態ならびに成膜条件を精査する。緻密性を高めたLAGP膜の電気伝導特性を測定・評価し,形成膜の緻密性とイオン伝導率の関連性を考察する。 ペロブスカイト構造LSTZ膜およびガーネット構造LLZ膜については,現段階で得られている膜の電気伝導特性を精査し,形成膜の微細組織・結晶構造との関連性を考察する。更に焼結体の電気伝導特性との比較を行い,LSTZ膜およびLLZ膜におけるイオン伝導率向上に向けた問題点・改善点を明らかにする。
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